平日で。
お客さんの入りが少ない火曜日で。
もう時計も6時を回っていて。
それなのに。
あたしの目の前には入口で固まっている一人の客がいる。ここを知らないはずの、あいつが。

「…イラッシャイマセー」

上手く笑えているだろうか。物凄く不安だ。
恐らくやたら頬が引き攣った変な顔をしているに違いないと思う。実際痛い。

奴は始めこそ目を丸くして驚きを露にしていたが、直ぐさまずかずかと音を立てて近付いてきた。

「なにしてんだよ!ってかその格好!」

奴、もとい榛名が怒鳴る。
仮にも店の中。静かにして頂きたい。
それにしても、榛名のその頬は怒りからか、少し赤みを含んでいるように見える。どれだけ怒ってんだこいつ。
あと、格好とか言われてもね、ここの制服だから。文句ならお母さんに言って。あたしだって似合わないの知ってるよ。

「なにって、家の手伝い」
「はあ?」

はあ?はこっちの台詞ですけど。

「だから手伝い。お母さんが新しく店出したから」
「…マジかよ。聞いてねえぞ姉ちゃんめ…」

斜め下を見ながら独り言を呟く榛名。

買う気がないならお引き取り願いたい。本当、気まずくてしょうがない。
というか、榛名は気まずさとかを感じてないのか。
あたしはあれだけ、酷いことをしてしまったのに。

「で、榛名こそ何か用?」
「あ?」
「ケーキ買いに来たんじゃないならお帰り下さい」
「…おまっ、覚えてねえの!?」
「……?」

覚えてない?
なにかあったっけ。
24日、24日…。

「あっ!!」

5月24日。
今日は榛名の誕生日だった。

「誕生日、だよね?榛名の」
「当たり前だろーが。他に誰がいんだよ」

むすっと膨れっ面で榛名が答える。
今のはあたしが確実に悪かった。
いくら疎遠だとはいえ、幼なじみの誕生日を忘れるなんて。

「ごめんごめん」

誕生日か。
そういえば榛名の誕生日が来ると、いつもあたしがケーキを作らされた思いがある。
甘いのあんまり食べないくせに大きく作れとか言われて。

…懐かしいな。

「オラ」
「…?」

榛名が片手を差し出す。
何が何だか分からなくて、とりあえず手を乗せた。

「お手じゃねーよ!」

払われた。

「んじゃなによ」
「……プレゼント、」
「ん?」
「プレゼント寄越せ」
「ない」
「ざけんな!」

お前がふざけんな。
いきなり来てプレゼント寄越せって言われても無理な話だろう。

「ならせめて祝え」
「えー…」
「嫌がるんじゃねえっつの」

踏ん反り返る榛名に強要されて、渋々だが祝いの言葉を言った。

「…おめでとう」
「…おう」

なんだこれ。
なんだこの空気。

「い、言ったんだから早く帰ってよね!」
「まだオレのケーキ買ってねえし」
「いいから!あとであたしが持ってくから!」
「……本当だな?」

あれ?
あたし何て言った?

「いいい今の無し!」
「却下」
「なんで!」
「絶対来いよ」

にやりと笑って店を出て行く榛名に、心臓がうるさい程に鼓動を早める。

これは、どうしたらいい?

灰色だった世界が急速に色付いていく。









by 蓬莱



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -