榛名は我が儘だ。俺様で天の邪鬼で意地悪ばかりするどうしようもないバカで、腹が立つくらいモテるし悪口を言い始めたらキリがない。
そして、そんな榛名の彼女をしている私はスゴイと思う。



体育館横の自動販売機のミネラルウォーターのボタンを押したとき私の視界に入ったのは、地面にしゃがみこむ榛名の背中だった。
こんな炎天下の中、何してるんだろう。熱射病にでもなりたいのか、

「榛名元希!」

「うおお!」

20秒ほど前に買ったミネラルウォーターを榛名の頬に当ててやると榛名は情けない悲鳴をあげてバランスを崩した。
「うわあ、なんで尻餅ついてんの?」

「はあ!?お前のせいだろーが!」

大声で耳が痛い。
いや、元は私が悪かったりするんだけど。

「うるっさいな、それあげるから許してよ。てか、何してるの?暑いのに外いたら熱射病なるよ、」

「……別に、なんでもねーよ!」

その時、私の視界に散らばった花弁とキレイに咲いている淡い青色の花とその横に転がったスコップが目に入った。これは、学校の花壇らしい。

「榛名、これ、」

「うっせーなあ、さっさと行くぞ!」

「花植えてた?」

「……知らねー、」


ミネラルウォーターを持ったまま、花に水をまく私の隣で待っていてくれる榛名はかっこよかった。


その日の帰り道、あの榛名が手入れをしていた花と花壇は、誰かが荒らした後だったことを本人から聞いた。
やっぱり、なんだかんだ言って榛名はいい奴だ、それが見えにくいだけで。



そんなことを思った日の放課後、久しぶりに榛名から一緒に帰ろうのお誘いを受けた。榛名は、いつも遠回りして私を家まで送ってくれる。


「ねえ、今日さあ、アイス食べて帰ろう?」

「コンビニか?」

「うん、ソーダの、なんだっけ、なんとか君!」

「太るぞー」

「榛名の奢りね。」

「意味わかんねー!!」



たかが120円くらいで騒ぐ榛名の腕を掴んで駅の隣にあるコンビニでなんとか君を奢らせた。榛名はジャイアントなコーン的なアイスを買っていた。

「なあ、それ一口くれよ」

「……一口交換で。」

「お前も食べてーのかよ」

私のソーダが榛名の手に、榛名のジャイアントが私の手に渡る。おお、チョコ美味しそう!よし。チョコ全部食べてあげよう

「ソーダもなかなかだなー」

「ジャイアントも素晴らしいね、チョコとか」

「!テメー!!チョコねぇじゃねえか!全部食ってんなよ!」

榛名は腹いせとばかりに私のなんとか君を4分の1までかじりってジャイアントを私から取り上げた。

「うわ!榛名この!」

勢いよく振った私の手は可哀想なことに榛名の手に当たり、榛名の手には私のなんとか君が握られてる。いや、握られていたのだ。
今なんとか君は、地面とこんにちは状態である。
あと一口分残っていたのに!あと一口も!

「………………」

「……じ、自業自得だろ!」
そういいながら、榛名は私にジャイアントなコーンを差し出してきた。
世の中はこういうのをツンデレって言うらしい、秋丸情報だ。
「くれるの?」
わざとらしく喜びながら上目遣いで榛名を見やる。
顔がやたら赤かった。

「…………やる。」

どうしよう。私がきゅんきゅんきてしまった。
人通りがわりと少ない帰り道で何を馬鹿なことをしているんだろう、若気の至りというやつだろうか。

「は、榛名……」

榛名の変な優しさが可愛すぎた。無性に頭を撫でたくなって、背伸びをして榛名の頭に手を伸ばした。

「なんだよ!!」

「や、なんか……ありがとう榛名、アイスとか、花壇とか、」

一瞬榛名は呆気にとられたような顔をしたけど、またすぐに、どかあ!と顔を赤くして二歩後ろに下がった。手に持っているアイスは溶けてしまっているし、私の首筋には汗が絡み付いていた。

「い、きなりなんだよ!気持ちわりーな!」

「なんだかんだ言っても榛名は優しいなあって思っただけだよ。ねえ?」

「う、うっせーよ!急に褒めんな!」

がりがり頭を掻くのは榛名の照れたときの癖だ。

「榛名はさ、きっと自分がしてる凄いことに気付いてない。アイスも、花壇も、野球も。」

「はあ?いきなりすぎて意味わかんねーよ」

「秋丸も言ってたよ。榛名はスゴい奴だって」

「………………」

「だから、凄いって話。」

上手く話がまとまって、榛名に伝わっただろうか、
私の言葉は拙いけれど、要するに私は、我が儘で俺様な榛名がわりと好きだという話。

「榛名が好きだよ。アイスとられても、我が儘でも、榛名が私のこと嫌いになっても」


榛名の手からアイスが離れて地面に落下する。
ああ、なんて声を洩らしたときにはもう遅くて、手を引かれて榛名の腕の中にいた。


「俺はお前を嫌いにならねーよ、絶対。」

「………………」

「プロになるまで待ってろ。ぜってー後悔させねえから、俺の彼女だったこと」


顔から火がでそうだった。榛名の腕の中で良かった、顔を見られるくらいなら死んだ方がマシなくらいに熱を帯びた私の顔は、榛名のキザな台詞でまたさらに赤みを増した。いや、嬉しかったけど。

「は、榛名、」

「……んだよ」

榛名の腕の中で、少し先にいるお婆ちゃんと目があった。ああもう死にたい。
恥ずかしい暑い、けど嬉しい。
変な葛藤でぐるぐるする私は限界に達して、思わず榛名から離れた。

「嬉しいんだけど、み、見られてるから、」

「……………」

「か、帰ろう!」

一拍おいて私と同じくらい赤くなる榛名の顔が面白かった。
二人揃って林檎みたいに赤くなりながら無言で帰路を歩き出す。さりげなく繋がれた手は少しだけ見逃してもらいたい、


「榛名、はやくプロになって楽させてね。」

「……おー」

「また練習と試合見に行くからね、」

「……スポドリ手作りしろよ」

命令口調は気に入らないが、仕方ないから頑張って作ってやるか。
黄色い声が上がるのは気にくわないけど頑張ってる榛名が見れると思えば安いものだ

繋がれた手をみて、
また小さく呟く。


「榛名、生まれてきてくれてありがとう、」


榛名を見上げると、視線が交わってぐしゃぐしゃ頭を撫でられた。


「こっちの台詞だっつの。」




笑った榛名はやっぱりむかつく程格好良かった。









by 南瓜



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