わたしが榛名に惚れたのはいつだっけ。去年の4月以降なのは明らかだけれどそれ以上絞り込むことはできなかった。偶然同じ学校で偶然同じクラスで、偶然席が前後で偶然帰り道が一緒だった。ほかの女の子より少しだけ彼に近かったわたしは、なんとなく彼といる時間が長かった。

夏の大会で武蔵野第一高校は創立以来の快挙を成し遂げた。榛名は入学当初からスカウト陣の注目の的で、今日もたくさんのプロの目を集めていると聞いた。彼らだけじゃない。武蔵野側の応援スタンドには見慣れない制服を着た女の子たちがたくさんいて、榛名が投げるたびに甘い歓声をあげていた。あからさまなLOVEずっきゅんオーラを出している彼女たちがうらやましかった。他校だからこそなせる技だよね。わたしが同じことをやったら学校中の噂にされて運が悪ければ榛名に避けられておしまいだ。武蔵野の応援団と榛名専属応援団の間に温度差があるのは当たり前のこと。そう思ってわたしは武蔵野の応援に精を出した。

「榛名くんかっこいー!」
「榛名くんがんばってー!」

もう、空気読んでほしいなあ。武蔵野の応援する気ないならバックネット裏にでも行けばいいのに。そのほうがよく見えるよ。ものすごくアウェーだけど。グラウンドでは榛名が三者凡退に押さえ、耳障りな歓声が一段と大きくなった。いらいらしてメガホンのふちをつぶしそうになった。

ベンチに戻っていく榛名が応援席を振り向いておおきく笑った。応援団長は奮い立ち、榛名専属応援団はこっち見た目が合ったとはしゃいでいた。榛名の笑顔はみんなを元気づけるんだ。本当あいつはエースっていう人種だと思うよ。

反対側の心房では中を読まれたようでどきりとした。あんまりいいタイミングで笑うもんだからわたしに笑いかけたのかと思った。そんなことはない、ないんだけど。あの笑顔は以前宿題を忘れて先生にこっぴどく叱られたとき、気にすんなと頭を撫でてくれたときのそれと似ていた。

なんとなく榛名と一緒にいたから、なんとなく榛名が思っていることがわかるような気がする。言わなくたってわかる、そんな関係。一方通行でもいいんだ。思うだけなら勝手でしょう。わたしはなんとなくしあわせになって、メガホンから特別でもなんでもない言葉を送った。








by 怜



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