雨が、降ってきた。降水確率90%。5月の雨はまだまだ冷たい。淀んだ空を見上げるとその暗さ故に窓ガラスに自分の顔が写りこむ。私は絨毯の上に腰を下ろし膝を抱える。落雷にご注意下さいと愛らしい笑顔を浮かべたお天気お姉さんの言葉を思い出してふるり、と身震いした。

そうっと窓の外を伺うとピカリと稲妻が走ってわたしは耳を覆う。何故こわいのか問われても分からない。こわいものはこわいのだ。わたしはベッドから掛け布団を引っ張るとそれにくるまって目をきつく閉じて耳をぎゅうっと押さえ付けた。お腹に響くごろごろという音に涙が出そうになる。なんで雷というものがあるのだろうか。理不尽だ。

何度落ちたか分からない稲光にどうすることも出来ず私は小さくなって震える。
がちゃりと控えめにドアが開くと、あちゃーと元希の声がした。あの低くて高いような不思議な声が私の名前を紡ぐと同時に掛け布団越しに頭を撫でられた。おっきい、元希の手の感覚。塞ぐ手が、目元が緩む。

「元希?」

「おー、泣いてねぇのな」

メズラシ、と言う声に引き寄せられるように私は掛け布団を落とした。

「なんで、部活、は」

「こんな雨でやるわけねぇだろ」

「……そ、か」

ふと気を緩めるとピカッと部屋が光った。瞬間、元希は私を胸に押し付ける。どくどくという元希の拍動にいつもいつも救われる。大丈夫か、と気付かってくれる声が心に染み渡って。うん、と言った声は涙まじりだった。

「鼻水つけんなよー」

「……ばーか」

「落ち着いたな」

ぽんぽんとあやすように背中を叩く元希の指が優しくて、心がふわふわと温かい。

「着替えさして」

「ん」

すっと離される腕がもう欲しくて、早くとねだれば元希ははいはいとカッターシャツとスラックスを脱いでスウェットに着替える。はいぎゅー、っていって抱きしめてくれた私服から元希の匂いがして、すごい幸せで。いつの間にやら意識を手放している。いつものパターンだ。

小さなアラームの音に目を開ける。当たり前のように私を抱きしめて爆睡している元希の腕の中で身を捩って携帯に手を伸ばす。23:59。わたしは小さくカウントダウンをして、彼の存在を祝う。ついでに自分からはあまりしないキスを彼の口に落とす。元希はうーと言いながら無意識にだろうか、私をきつく抱きしめて。止んだ雨と雷に感謝して再び意識を手放す。


その甘い指先で


未来永劫わたしを幸せにして欲しいとそう願う。








by 森永



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