朝からもやもやしていた。

今日は五月の二十四日。つまりはオレの誕生日であるわけなのだが、多分、それとは関係ないと思う。

去年と同じように、数人の友人からメールがきたし、両親にはおめでとうを言われたし、秋丸には歳を重ねた分は考え方も大人になってほしいだのと言われたし、そしてもちろん蹴飛ばしてやったし、去年との違いはといえば、念願の彼女というやつに祝ってもらえたことくらいだろうか。

その彼女が友達に付き合ってもらって、何時間もかけて選んだというプレゼントは、オレの趣味に合ったマグカップで、さすがはオレの選んだ女だと思った。

そして、プレゼントをオレのことだけ考えて一生懸命選んでいる彼女を想像してしまい、しばらくにやけが止まらなかった。

誕生日としては十分幸せで、十分嬉しいはずで、それでも、未だに胸がもやもやするのだから、誕生日は関係ないのだろう。



ファミレスで誕生日を祝ってくれたセンパイ方と別れ、ファミレスまでついて来てくれた彼女を途中まで家に送り、オレは一人帰路につく。

隣にアイツの笑顔がないってのは寂しいもんなんだとか、そんな事を思った。

道を照らす頼りない蛍光灯。こんなものいつもならベツにどうってことなかったハズなのに。ポツンと浮かび上がるオレの影に、寂しさが増すというか、もやもやが増した気がする。

そしてオレは、このもやもやの正体が寂しさだということにようやく気付いた。

さっきまでみんなでワイワイやっていたのに、急に一人になって、だからオレは寂しかったのか。ガキみたいだ。

しかし、それならば、なぜ朝からそんな気持ちを抱いていたのだろう。


コツンというヒールの音に、ふと顔を上げると少し先にある蛍光灯の下に人影が見えた。

そういえば、去年までと今年の違いは彼女の有無だけではなかったのだった。

去年まで同じマンションに住んでいた、小学生の時からお世話になりっぱなしの、年上のお姉さん。

彼女が、去年の九月頃に結婚して、旦那さんのうちの方に引っ越してしまったのだ。

そして、今年はまだ彼女から祝いの言葉を聞いていない。

「やあ、元希くん」

「なんでこんなとこほっつき歩いてんスか。新妻は晩御飯作ってうちで旦那さん待ってなきゃダメッスよ」

「あはは、今日は"旦那さん"も一緒にこっち来てるのよ。で、そういえば元希くん誕生日だったな。って思い出して迎えに来たの。恭平くんから聞いたよ?彼女さん送ってたんだって?」

「げ、あんにゃろ、なに余計なこと……」

オレの反応をおかしそうに笑う彼女。その姿に、胸のもやもやがスーッと消えていくのがわかる。

「彼女さん見たかったなー。可愛いの?プレゼント貰った?」

「あー、マグカップ貰いました」

「あはは、私が先月旦那の誕生日にあげたのと同じじゃないの。まあ、兎にも角にも、元希くん誕生日おめでとう」

「どうも」

「あ、そうだ。私にもおめでとう言ってよ。」

「はい?」

自分のお腹を優しく撫でた彼女を見て、オレは変に幸せな気持ちになった。

この様子じゃ、彼女からの誕生日プレゼントは無いだろうが、そんなもの最初から期待はしていなかったし、プレゼントはアイツからので十分だ。隣を歩く彼女から何かを貰っても、それ以上に喜べるわけもない。

ただ、自分の誕生日に、他の人間が幸せそうにしているのが幸せだった。

若干、オレより幸せそうにも見えるのが羨ましい気持ちもあるので、うちに着いたらまずアイツに電話をしようと思う。

先ほど分かれたばかりなのになんだと笑われるかもしれないが、誕生日だしそれくらい許してくれるだろう。

「わかんないかなー?おめでたなのよー」

「そりゃめでたいッスね」

「あ、元希くんもしかして、おめでたって言い方じゃわからない?」

「は?そんくらいわかりますよ!」

元希くんと彼女さんにもいつか赤ちゃん出来るといいね。と言われて、瞬時にそんな未来を想像して、またにやけてしまった。

今日はやけに彼女について妄想してしまう日だとか思いつつ、これからの幸せを想像しただけでにやけられる自分に苦笑。

「それにしても元希くんは相変わらずコロコロ表情が変わるねえ。」

幸せだからですなんて恥ずかしい台詞は流石に言えないけれど、今日はもう照れたりして怒鳴るのは止めておこうと思った。


というのも束の間、コンビニに行く途中の秋丸にたまたま会って、彼女が出来たことを勝手に人に暴露したことについて怒鳴りつけるのは、また別の話になるのだが。








by 都竹


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