「う、ぉ」

始業式当日のこと。靴箱前にある掲示板に、クラスの割り振り表が貼り出されていた。あたしは期待と不安を胸に、混雑している中を頑張って割り入ってなんとか自分の名前を探す。1年、2年、3年と学年ごとに掲示板が離れているからまだ良かったが、それでも8時前の学生が登校するピーク時。その人混みに気圧されないことはないだろう。

A組みから一つずつ順に探していき、B組に目を移すとそこには彼の名前が書かれていた。

「榛名、元希…」

ボソッと小さく、誰にも聞こえないくらいの声量で呟く。彼は、今年はB組らしい。彼のクラスが分かって嬉しいことと、もし自分は違うクラスだったらどうしようという相反した気持ちがぶつかり合う。僅かな希望を抱きながら、B組の女子の欄から自分の名前を探し出した。途中、友人の名前を見つけたが、あたしも同じクラスでなければ意味がない。最悪、彼と同じクラスになれた彼女を妬んでしまうかもしれない。それは、それだけは絶対に嫌だ。

うちの学校のクラス割りの表示の仕方は少し特殊で、名前順ではなく学籍番号順となっている。だから必ずしも自分の名前があいうえお順に並んでいるわけではないので、見つけるのも一苦労なのだ。なぜ、こんな回りくどいことを先人たちは行なってきたのか。それともこのやり方の方が教師たちにとって作業が行いやすいのか、それは聞いてみないと分からない。

そんなことを考えながら、とうとう最後の方まで来てしまった。一文字一文字と入念に名前を一つずつを瞳に映し出していくが、とうとうあたしの名前はみつからなかった。

同じクラスになれなかったことに大きく肩を落とし落胆したが、反対に果たして同じクラスになれたとして話しかけることができたのだろうか。1年生の時は同じクラスだったにも関わらず、選択授業以外では話すことは全くと言っていいほどなかった。クラスで目が合うことがあっても、話しかけられることはなかった。そんな曖昧な状態で、同じクラスになれても仲良くなれるかといったらYesと言い切れない。寧ろNoとなら断言できるくらいだ。

「あれ、ららじゃん」
「あ、」

すっかり元気をなくし俯いていたあたしに声をかけたのは、例のB組になれた友達だった。ふと顔を上げ視界を前に戻すと、彼女はあたしの顔を見た途端に目を見開いた。そりゃあクラス表の前でこんな顔をしていれば何事かと訝しむか、どうしたのかと驚くことだろう。

「ちょ、どうしたの、そんな顔して。なんかあった?」
「いやあたしの名前がB組になくて…」
「は?」

しまった、と思ったときには時すでに遅し。つい口をついて出た言葉に、慌てて手を口で抑えようとするが、更に怪しまれると思ってすぐに戻した。駟も舌に及ばず、あたしはこの時ほど自分の口の軽さを羨んだことはないだろう。堪らず視線を横へとずらすが、しかし彼女はあたしの顔を覗きこむようにしてこう言い放つ。

「なにいってんの、あんた。あたしと同じクラスでしょうが」
「…え?」
「自分の名前くらいちゃんと探せるようにしなさいよね〜」

そういって彼女が掲示板に向かって指の先ある一方に示す。その刺された方向へと食い入るように目を追うと、確かにそこにあたしの名前があった。しかもちゃんとB組に。なんということだろう、あたしは自分の名前をあろうことか見落としていたとは。しかしそれだと、あたしは他のクラスに自分の名前を探し続けていたことになるのか。この学校は軽く5クラスはあったはずなので、かなりの時間の無駄だったに違いない。あたしの性格を考えると、チャイムが鳴っても自分の名前を見つけることができなかっただろう。途方に暮れる自分が安易に想像ができて恥ずかしくなった。心の中で、あたしの名前を見つけてくれた彼女に感謝する。口には出さないが。

「全く、そこまで落ち込むくらいあたしと同じクラスになりたかったなんてね!」
「あ、ははははは…」
「ほら、ここだと他の人の邪魔になるから早く教室に行こ」

手首を掴まれ、ぐいぐいとまた人の波を泳いでいく。行きはよいよい帰りは怖いとよく言うが、あたしの場合行きは怖くて帰りの方が楽そうだ。あっという間に人混みから抜け出し靴箱に向かう。場所が移動し新しくなった2年B組の靴箱に、あたしの名前がちゃんと記されていた。あたしは綻ぶ口元を友達にバレないようなんとか抑え、だが逸る気持ちは抑えきれずに勢いよく靴を脱いだ。






はじめのいっぽ
(やった…!!)



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