ドクンドクン―――
落ち着け。落ち着け。大丈夫だ自分。誰にも気付かれぬよう、本人にも悟られぬよう、細心の注意を忘れるな。あたかも今思いついたとでもいうように、何気なくさり気なく質問することが重要だ。この流れで少しでも不振がられるような態度を取れば、すぐにでもばれてしまう。そんなことは今後のことを踏まえると、絶対にやらかしてはならない。怪訝にも不審にも不穏にも、思われてはいけないのだ。

さあ、とうとうあたしの番がやって来た。まだ本人を含め他にも何人か残っているこの状況で、敢えて聞かないという手もあるにはある。わざわざ危険な橋を渡る道理はないのだ。聞く人がどうであれ、どうせ全員に聞くことになるのだから。しかし、あたしのこのどうしようもない意地が邪魔をして、結局は当人に聞いてしまうのだ。

「あ、榛名くんの誕生日はいつなの?」



あれは確か春休みに入る前の授業の合間の休み時間か、それとも早めにHRが終わったあとの放課後だったろうか。何分あの時は非常に緊張していたため、誕生日の日にちのこと以外あまり覚えていない。他の友人やクラスメイトの男子の誕生日も聞いた覚えはあるのだが、生憎テンパっていたために頭の仲が真っ白でなにも記憶していないのだ。

今は春休み、自宅でいつまでも悶々としているあたしの思考回路はどこまで同じことをループするのか。せっかく榛名くんの誕生日が5月24日ということが分かったのに、なにをあげればいいのか皆目見当がつかない。もちろん期日まではまだ大分余裕があるのだが、今の現状だと前日まで決まらなさそうなのである。

榛名くんとは選択授業で隣の席だということ以外、あまり接点がない。一応クラスメイトなのだが、普段の教室では席が離れているので話す機会がないのだ。部活も所属していないので、野球部に専念している榛名くんとは選択授業での情報交換以外に喋らない。野球にこれといって興味のないあたしは、放課後練習を見る気も特になく。あの日たまたま会話に加わることができて誕生日を聞けたが、2年生になっても同じクラスとは限らないのだ。

もうすぐ春休みが終わり、始業式が始まるだろう。部屋の窓から見える桜が、もうすぐ春なのだと告げていた。気温はまだ冬並みなのに、温かい空気へと変わっていく。季節は徐々に変わりつつあるのに、あたしはなにも変わっていない。なにも考えていない。

榛名くんのことはまだ好き、とは思わない。ただなんとなく気になる存在ではある。学校で見かければ目で追いかけてしまい、彼のハッキリとした声は聴いていて心地が良い。友人と笑い合ってる姿は微笑ましく、まだ幼さを残す笑顔は心がほっこり温まる。だからといってどうこうなりたいとも思わず、付き合いたい願う段階でもない。しかし誕生日プレゼントはあげたいと、なぜか強く思った。理由は分からない。彼のことをいつから気になるようになったかも分からない。でも、また同じクラスになりたいと思った。もっとたくさん話せるようになりたいと思った。彼のことを深く知りたいと思った。

こんなに一人の人間に対し夢中になったのは初めてのことで、どうしたらいいか分からない。まだ目前のことに夢中で手付かずの状況だが、取り敢えず知り合いというカテゴリーから友達までには昇格したいなと思った。






つぼみのひらくまで
(せめて同じクラスになっていますように…!!)



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