「それで、どこに行くんです?」

僕は緑間君に尋ねる。緑間君はくいっと顎で行き先を示した。緑間君が示した先にあったのは、生徒が閲覧する事を禁じられている場所。そうだ、緑間君はここで調べたい事があると言って、図書室まで足を運んだのだ。しかし、何故、今。

「…それと、出来ればだがな…生徒襲撃の現場を見たいのだが…何と言っても場所が分からん」

はあ、と緑間君は嘆息を吐いた。そう、実は生徒襲撃の現場やどう襲撃されたかは決して口外されてはいない。先生達によってひた隠しにされているのだ。それに 現場を見て状況を知るのは1番手っ取り早いだろうが危険性は格段に上がる。だから緑間君は1人で調べようとしたのかもしれない。何か打開策はないのか、と1番頭の回転が早い赤司君を見るが、赤司君も頭に手を当てて考え込んでいる。その時だった。

「…こちらです!」

微かだったが、占い学の先生のものとよく似ている声が聞こえてきた。僕らはハッと図書室の入口を見る。そうして、互いの顔を見合わせた後に。

「…行きましょう!」

僕らは一斉に走り出した。



「…うわ、教師の行列とか…」

青峰君が苦虫を噛み潰したような表情でそう呟いた。彼の苦手な、魔法薬学の先生が行列の中に混じっていたからだろう。僕も出来れば、教師の行列はやはり見たくないものだ。
教師の行列が曲がり角に差し掛かり、右に曲がる。その時、赤司君が行くぞと声を掛けた。僕らは足音をたてないように注意しながら行列の後をつけた。曲がり角に近づくと、教師以外の幼い声が聞こえてきた。いや、幼いとは言っても、声変わりはしている。そして、僕らはその声の持ち主をよく知っていた。

「黄瀬…?」

緑間君が呆然と呟いた。そして。

「緑間ァッ!?」

駆け出したのだ。一目散に曲がり角へと。慌てて僕らも追い掛ける。バタバタと大きく足音が響いたが、構ってはもういられない。緑間君が曲がり角を曲がり、その少し後に僕らが続いた。緑間君を見失ってしまうのではないか、その心配もあったけれどそれは杞憂に終わった。
呆然と立ち尽くす緑間君。その少し先には教師が円を描くように集まっていて、その中心に見慣れた金髪があった。何かを抱きかかえて。

「笠松、笠松先輩ッ!!」

笠松先輩の、だらりと力なく下がった腕から滴る血が、事の重大さを物語っていた。

「君たち…何故ここに…」

副校長が少し怒気を含ませた声を出した。緑間君はすみません、と一言謝った。それに続いて、赤司君が、寮に戻る途中だったもので、と言った。

「どこを通っては行けない、と申し上げられなかったものですから、どこを通っても構わないでしょう?そうして急いでいたら偶然現場に居合わせてしまったというわけです」

凄まじいですね。皮肉を込めて赤司君は片頬を釣り上げた。その間に緑間君は、教師の群れを押し退けて、黄瀬君の元へ向かっていた。僕も緑間君に続く。教師の群れの真ん中にあった光景は、もはや惨劇とかしか言いようがないほど酷いものだった。あちこちを切り裂かれ血を流す笠松さんを抱きかかえて泣き叫ぶ黄瀬君。彼のローブやシャツも、笠松さんの血液で赤く染まってしまっていた。

「…き、せ」
「緑間っち、助けて、止まらないんス、か、笠松先輩の血、止まらないんス…し、んじゃう、死んじゃうよ!」

黄瀬君の悲鳴が、通路中に轟いた。



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