どうしよう敦!と赤ちんがレイブンクローの談話室に駆け込んで来たのは、先週の事だった。その時の赤ちんは、この世の終わりだとでも言いたげな顔をしていて、どうしたんだろう、と俺はポテチを食べる手を一瞬止めたのを覚えている。赤ちんはそれ以来ちょくちょくレイブンクローの談話室に来るようになった。話の内容は、これだ。

「…んで、今日もミドチンと何かあったの?」

話題は主に、ミドチンの事だった。ミドチンと赤ちんはとても仲が悪い。顔を合わせればすぐに喧嘩、魔法大戦争。俺も居合わせた事あるけれど、とてもじゃないけどその場には居られなかったくらいだ。でも、赤ちんは最近、ミドチンに対して何だか今までとは違う感情を抱くようになったのだという。不整脈が、不整脈が!なんて叫んでは、おいおいと泣いているのだ。

んー、赤ちん、それってきっと恋だよね。
でも赤ちんには言えない。だって赤ちん、

「緑間の奴、新しい魔法でも編み出したのか!?あいつと顔を合わせる度に…っ、し、心臓が…っ」

なんて言って、机に突っ伏すのだ。うん、そうだね赤ちん。ミドチンは赤ちんに恋の魔法をかけたんだよー、なんてキャラじゃないし、信じないだろうから絶対に言えないのだ。だから俺は、赤ちんの話を聞いて、うんうんすごいねー、お菓子食べるー?くらいしか言えないのである。赤ちんはその度に泣き腫らした赤い目を向けて、ポッキーをせがむのだった。


今日も今日とて、赤ちんはやってきた。しょんぼりと肩を落としながら、とぼとぼと談話室の椅子に腰掛ける。

「今日はどうしたの、赤ちん」
「…敦、笑わないで聞いてくれるか」
「うん、オッケー」

どうしたんだろう。いつもは子供のように泣き喚きながらミドチンの事訴えてくるのに、今日はとても大人しい。しかも、既に目は泣き腫らしたように真っ赤だった。俺は赤ちんの顔を覗き込みながら、大丈夫だよ、と頭を撫でてあげた。赤ちんは、あのね、と震えた声で切り出したから、頭を撫でるのをやめ、頷いた。

「…緑間が、和成と一緒にいたんだ。いつもの事なんだ。和成が緑間と一緒にいて、スキンシップをするの」
「うん、うん」
「…でもさ、今日、それを改めて見たら何だかこう」

辛かったんだ、と赤ちんは泣きそうな声で言う。ぎゅっと心臓のあたりを抑えて。前までは、友達を取って行ってしまったミドチンに感じていたそれを、今日は高尾に感じてしまったのだと。高尾がミドチンに嫌われたと泣き喚いた時に背中を押したのは自分でもあるのに、今はそれを酷く後悔しているのだと。

「…赤ちん、それ」
「うん、嫉妬だよ。和成に嫉妬したんだ」
「…赤、ちん」
「僕…緑間のこと、好きなのかな」

ぐす、と赤ちんは鼻を鳴らした。赤ちんがようやく自覚したらしい。俺は、赤ちんの髪を梳くように撫でてあげた。そして、いつもあげているポッキーを差し出した。赤ちんは、それを受け取る。ありがとう、と言った声が、とても弱々しかった。

「…敦、どうしよう」
「…ん?」
「僕、あいつに色々酷い事言ったし、酷い事した。なのに今更好きなんて、言えない」
「赤ちん…」
「どうしよう…」

赤ちんが両手を握りしめた。それを見て、俺は決心する。
赤ちんの手を取って、俺は談話室の出口に向かった。敦!?と驚いた声を上げる彼に、俺は振り返りざまに笑いながら確かめに行こう、と告げた。

「ミドチンのとこ、いこ!」



**

「合言葉は?」
「生焼けのかぼちゃパイ!」

グリフィンドールの合言葉を告げると、扉があいた。そこをズンズンと進む。確か、今頃はグリフィンドールの談話室に例の3人がいるはずだ。赤ちんは先程からやめよう敦、帰ろうと抗議しているがこの際無視しよう。ごめんね、赤ちん。


「…紫原君、と赤司君!?」

グリフィンドールの談話室には、やはり3人組がいた。驚いたようにこちらを見ている。黒ちんが代表したように声をあげた。ミドチンは…後ろの赤ちんに対して威嚇をしている。あらら、赤ちん縮こまっちゃった。

「へへ、ごめんねー。赤ちんがね、ミドチンのこと…「あああぁぁあ敦!?」

赤ちんが俺の背中をばしんと叩いた。痛い、めちゃくちゃ痛い。しかも途中で遮られたから、黒ちんや火神の頭にははてなマークが飛んでいる。ミドチンはそもそも威嚇している。駄目だこりゃ、どうしよう。
赤ちんの顔は真っ赤だった。ミドチンへの恋心を自覚した直後にミドチンに会う羽目になり、しかも俺がその恋心を告げようとした訳だから、もうキャパシティオーバーといったところだろう。でもね、赤ちん。今日の敦は少しだけ厳しいのです。わさび味のポテチくらいに。

「ミドチン、ミドチン。威嚇しないでこっちきてー?赤ちんがちょぉぉっとだけお話があるってー」
「…お話?」
「あああ敦何言って…」
「うん、お話ー。悪い話じゃあないよ?」
「敦お前!!ず、頭が高いぞ!!」
「…わかったのだよ」
「ええええええっ!?」

赤ちん、うるさい。俺とミドチンの会話にいちいちツッコミとも言えないツッコミをしていた。ミドチンは、すくりと立ち上がって俺と赤ちんの側まで来た。そして、赤ちんの隣に立つ。赤ちんは俺の背中に顔を埋めてしまった。ありゃー、恥ずかしがり屋さんめ。

「…んで、話ってなんなのだよ、厨二病」
「うるさい黙れ死ねクソメガネ」
「ああ?!」

赤ちんのバカ!俺は恥ずかしさと情けなさに負けて暴言を吐き始めた赤ちんを肘で背中から引き剥がした。ぐへっとカエルが潰れたような音を出して離れた赤ちんに、ミドチンがぷんぷん怒りながら詰め寄る。あ、赤ちんめっちゃ顔赤い。リンゴみたい。その赤ちんの顔を見て気付いたのか、黒ちんがまさかと声を上げていた。鈍感火神は未だにはてなマークを飛ばしている。ちっ、使えないな。でも黒ちんは、俺と目を合わせて、頷いていた。多少の協力はしてくれるかもしれない。

「緑間君、落ち着いてください。赤司君と無事に会話出来たらおしるこあげます」
「本当か!?」
「はい」
「わ、わかったのだよ!ほら赤司、お話するのだよ、お話!」

途端にお花畑モードになったミドチンを見て、赤ちんもお花畑モードになった。何だこれ、ほんわかした空気が漂っている。革命だ、グリーンレボリューションだ。ミドチンすげー。
赤ちんは、あのさ、と切り出した。ミドチンが、うん、と返事をした。これだけですごい事なのだ。二人にとって。まず会話が続いている時点ですごいのだ。俺、感動した。黒ちんがシュークリームを差し出してくれたから、談話室の椅子をお借りして、シュークリームを食べながら2人を見守る事にした。

「…あ、あの、さ」
「…なんなのだよ?」
「み、緑間のこと、真太郎って呼んでもいいかな」

おお!赤ちん頑張った。もう恥ずかしさとか色々溢れて半泣きだし相変わらず分かりにくい素直じゃない言葉だったけれど、赤ちんはミドチンの目をしっかり見ていた。きっと伝わるはずだ、赤ちんの今の言葉の本当の意味。ミドチンは、目をクリクリとさせる。そうした後、言葉の意味を理解したのだろう。ぼふん、と顔を赤らめた。可愛いなあ、ミドチンも、赤ちんも。
ミドチンは、赤ちんに縮められてしまった小さな身体を更に縮こませる。そして、

「し、仕方ないから呼ばせてやるのだよ」と。

赤ちんの顔が、花のように綻んで、嬉しそうに俺を見る。良かったね、赤ちん。隣の黒ちんは、困ったような安心したような、複雑だけど暖かい表情を浮かべていた。火神も、きっとまだよく分かっていないのだろうけど優しい表情を浮かべている。
良かったなぁ。友達の第一歩を踏み出せて。俺は、最後の一口となったシュークリームを口に放り込んで、咀嚼しながら笑った。



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