『繰り返します。生徒全員、各寮の談話室に急いで集合してください。また、各寮の監督生に連絡しますー…』

それは突然の変化だった。切羽詰まったような教頭先生の放送が入り、僕たちは否が応でも談話室に集められる。火神君は不安気な表情を浮かべ、緑間君も何が起きているのだ、という戸惑いの表情を浮かべていた。恐らく…僕も。
グリフィンドール生が集められた談話室はやはり窮屈だった。皆やはり、火神君や緑間君と同じような表情を一様に浮かべている。ヒソヒソ話があちらこちらから聞こえ、もはやヒソヒソなんてものではなくなってしまっていた。

「…んなぁ、これってよ…緑間が前に襲われた時と何か関係があんのか…?」
「わかりません。しかしあの時の死喰い人は処分されて現在は裁判待ちのハズです…なのに」
「…」

火神君が僕にこそりと話しかけて来た内容が、今回僕らが集められた理由に思える。少し前から、マグル生まれを狙った襲撃事件がかなり頻発していた。緑間君もそれに狙われてしまい、どうやら許されざる呪文を唱えられかけたらしい。赤司君が近くにいたため大事にはならなかったが、緑間君を襲った上級生が死喰い人であった事から、闇の魔法使いの権力がホグワーツに及び始めている、という事がわかったのだ。

「…死喰い人ってさ、あの、やべぇ闇の魔法使いの下僕、だよな」
「ええ、しかし…」
「例のあの人…ヴォルデモートはすでに死んでいる」

緑間君が趣に口を開いた。
そうだ、あの最恐の魔法使い。名前を呼ぶ事すら恐れられた史上最悪の魔法使いは、既に亡くなっている。それは僕らがホグワーツに入学するずっと前の話だ。

「…じ、じゃあ、なんで、死喰い人が?」
「…意味が無いからだ、死んだとして何も変わりはしない」

何も問題は無いだろう、死んでいたとしても、"神"としてそこにいれば集団は成り立つ。
緑間君はそう憎々し気に話した。そうだ、彼が生きていた時はリーダーとして信仰し、彼が死んだ今は神として信仰する。そうして闇の魔術の連鎖は、きっと未だに続いてしまっているのだろう。

「皆さん静かに!落ち着いて、聞いてください」

ざわめきも最高潮に達した時、教頭先生が談話室に到着した。僕らをぐるりと見渡し、声を荒げる。途端にしん、と静まり返る談話室に、教頭先生の声が静かに、だがとても重く響いた。

「生徒の襲撃が後をたちません。よって、これからは皆さん、かならず集団で動くように」

その言葉を聞いた緑間君は、チッと舌打ちを零した。不愉快だったのだろう。マグル生まれの生徒が狙われている事は、実は一部の生徒しか知らない。僕らや高尾君たち、黄瀬君たちは知っているが、周りの生徒はあくまで生徒が襲われた事しか知らない。マグル生まれが狙われている事をあからさまに隠した学校側の方針が気に食わないのだろう。それは、僕や火神君も同じだった。


**

「無意味だ!集団で動こうが、マグル同志で行動した者はどちらにせよ狙われる」
「そうですね…」
「なあ、このままじゃ…犯人の思う壺じゃね…?」

僕ら3人以外居なくなった談話室。先程までの喧騒は嘘のようにしんとした空間で、僕らは学校側の対処の仕方に問題があるのではないか、と話し合いを始めていた。緑間君はかなり苛立ちを見せ、火神君は戸惑いを隠せずにいる。僕は、その中間だった。頬杖を付き羊皮紙に羽ペンで緑間君は何やら文章を書いて行く。それをじっと見つめていた僕は、書き終えられた文章を見てはっと目を見開いた。
それは、スリザリン寮の彼らに宛てた、手紙だった。

「…ふくろうを使うつもりですか」
「いや、これくらいなら恐らく魔法でなんとかなる」
「…はっ!?んな魔法あったか!?」
「この羊皮紙はな、特殊なのだよ」

にたりと笑った緑間君は、杖を取り出し何やら呪文を唱えた。途端に羊皮紙に書かれた文章は消え、僕と火神は目を見開きお互い目を合わせた。しばらく経つと羊皮紙に再び文字が現れる。几帳面な字と、丸字と、汚い字の三種。

『なんだい緑間真太郎、わざわざ僕らを呼びつけて…と聞くまでもないか。先ほどの生徒襲撃の対処に関することだろう?…和成、うるさい』
『真ちゃん!?まじで真ちゃん!?』
『ったくよお…集団行動とかまじだりぃ…信じらんねぇ…』

「…これ、は?」

呟いた僕の言葉が羊皮紙にそのまま書かれ、そうして再び吸い込まれるように消えた。するとすぐ、几帳面な字が書き直されていく。

『ああ、テツヤもいるのかい』
「赤司!?」
『うお、火神もいんのか』
「お前らうるさいのだよ!赤司、おいこら赤司。貴様に協力を申し出るのは非常に不本意だが致し方ない。明日の時限が全て終えたら図書室に来い、いいな」
『…そうだな、僕も不本意だがそう思っていた。すぐに向かおう。このバカどもも連れていくがそれでも?』
「構わん。むしろありがたい。それでは今日はこれで」

緑間君は再び呪文を唱えて杖を一振りした。すると、先程現れていた文字は跡形もなく消え失せ、ただの羊皮紙に戻る。その羊皮紙を畳みながら、緑間君は僕らを見据えて口を開いた。

「いいか、明日、俺はちとばかし悪い事をするのだよ」
「…生徒閲覧禁止の書物を見るつもりですね」
「ああ。色々調べよう。俺とてそう簡単に死にたくはない」

お前達は、どうする。
緑間君がそう問いかけた。火神君と僕は互いに顔を見合わせる。答えなんて一つしかない。

「当たり前だろ、やるぜ!」
「同じくです。仲間ですから」

火神君が左手を出し、僕はその上に手を重ねた。ほらはやく、緑間君も。そう促すと、緑間君は目を見開きー…すぐに、微笑む。そうして彼の左手が、1番上に重ねられた。

「ありがとう」
「どういたしまして!」
「you're welcome!」

重ねられた手を、全員で下に下げる。僕らの決意の、証だ。




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -