あむ、と大きな口を開いて噛み付かれた最近発売したばかりのハンバーガーは、口を閉じたまま咀嚼する彼の胃袋の中に消えて行った。頬杖を付きながらその様子を眺める自分は、バニラシェイクのMサイズを啜る。もうそろそろ無くなるのであろう、バニラシェイクを啜ると空気が混じり始め、ズコッというなんとも間抜けな音が聞こえた。

そう、まるで誠凜の光と影の食事風景である。因みに俺達は、光と影は同じでも残念ながら他校だ。俺の名前は高尾和成。彼女無し、童貞は中学2年生の時の一夜の過ちとともに消えていった。前に座るのは相棒の緑間真太郎。こちらも彼女無し。性格にやや難があるが、文句無しの美形だ。そしてこちらは恋愛、もとい女性に免疫がないため恐らくだが童貞、だと思う。
自己紹介は、いや、余計なものまで混じってしまった感は否めないが一応、これで締め括らせて頂くとして、俺の話をどうか聞いてもらいたいのだ。

いきなり某誠凜の光並みに食欲が増してしまった、俺の光の話を。




「真ちゃん…食べ過ぎじゃね?太るよ?」

突然だった。いつも女の子の弁当か!と思惑突っ込みたくなるような小さな弁当を持ってくる緑間が、食べ終わった後に小さく、「足りん…」と呟いて購買にダッシュするようになったのは。それから一週間経てば、緑間は小さな弁当にプラスして菓子パンを数個持ち歩くようになり、最近では昼休み以外にも何かを食べるようになった。ふと緑間を見れば何かを食べている。まるでキセキの世代の、紫原のように。

「…腹が減っては戦は出来ないのだよ、高尾」

そう言っては菓子パンなりお菓子なりを口一杯に頬張るのだ。幸せそうに。
挙げ句の果てには、部活中にも頬張るようになってしまった。いや、流石に練習中は食べたりはしない。休憩中に、先輩の「俺のパンがねええええっ!!」という叫び声を聞くのは年中だ。その度に緑間は大きな図体を縮こませて、宮地先輩のお気に入りのアイドルステッカーが同封されているチーズ蒸しパンをこれまた口一杯に頬張りながら唇に人差し指を当てるのである。黙っておけ、と。
結局同封されたアイドルステッカーは、近くのゴミ箱にポイッて捨てて証拠隠滅を図り、その度に宮地さんに捕まっている。学習能力が全くもってないのである。

「緑間てめえっ!」
「ご、ごかいれす。ごか…、ごくっ、誤解ですみゃーじせんぱい」
「みゃーじとかお前に言われても嬉しくない」
「こんなクソなも…いえ、こんな要らないステッカー、くれてやりますから俺にパンを。パンの恵みを」
「いや元はと言えばそのパン、俺のだからな!?つかクソっつったよな轢くぞ!?え?轢くぞ!?」

と、こんな具合で緑間は、宮地さんにいつもポカンと一発痛い愛情を食らっている。それでも緑間は食べるのをやめない。最近は大坪さんが態々お母様に緑間の為に、小腹が空いた時に食べれるようなクッキーなどなどを頼んでくれているそうだが、緑間のは小腹が空いたなんてものじゃ形容する事は出来ない。緑間の食欲は最早ブラックホールすら冷や汗を垂らす程なのだから。

「…つかさぁ、真ちゃんなんでそんな食べるようになったわけ?」

話は戻って今のマジバにて。
俺は緑間にそう切り掛けた。緑間はハンバーガーを咀嚼していた口をピタリと止めて小首を傾げる。眼鏡の下の綺麗な目がぱちくりと開いて。

「…わからん、何故だろう」
「まじいきなりだったよなぁ、真ちゃんが食い出すの」
「急にお腹が空いた、って思ったのだよ。そうしたらもう…」
「落ちるとこまで落ちて今こうなった訳な」
「物分かりがいいな、高尾」

気付けば緑間のトレイに置かれたハンバーガーは残り一個になっていた。それに手を伸ばした緑間。俺は、それに緑間の左手が触れる僅か前に鷲掴む。まるで、獲物を取る鷹のように。

「なぁっ、返せっ!」

緑間はテーブルに身を乗り出して手を伸ばす。俺はその緑間の手をぐいっと引っ張った。バランスを崩した緑間は慌てて右手をテーブルの上について体制を整えたが、場所が悪かった。極めて俺に近い位置で手をついた緑間と俺の距離は必然的に近くなる。俺は緑間の瞳をじっと見つめた。相も変わらずとても綺麗な瞳だ。

「…ったか、お、まて、近い」
「あ、ごめんごめん」

俺はへらりと笑って、少し顔を離す。緑間はほっとしたように若干肩の力を抜いたように見えた。そう言えば、彼の顔をじっくり見たからか分からないが、若干彼の頬に丸みがかかったような気がする。

「…お、真ちゃんのほっぺ、ちょっとぷにってしてきてね?」
「んむぅ!?」
「ぶほっ!」

緑間は怪訝そうに俺を見る。それでも俺は止めずに緑間の頬を両手でぷにぷにと弄んだ。柔らかい、彼は身長に比べると体重が然程ないから、以前に比べれば肉付きがよくなったのは良い事だが、良過ぎても良くない。緑間の頬を触りながら、やはり食事制限した方が良いのかもしれないな、と言った。
一方で緑間はされるがままになっている。しかも若干俯き加減だ。何だ、どうしたと思って顔を覗き込む。
俺の手は、止まった。

「真ちゃ、」

緑間が、恥ずかしそうにふにゃりと微笑んでいたから、俺は硬直してしまって。

「な、何で笑ってんの!?」
「…いや、その…お前がお母さんみたいで」

何か嬉しいような、歯がゆいような、そんな気分なのだよ、と。そう言ってふふっと笑う緑間の笑顔があまりにも優しい笑顔だったから。
俺は崩れ落ちるように机に突っ伏して、先程取り上げたハンバーガーを両手に乗せた。
そうして緑間の方に差し出し、お返ししますと。
降参だった。参った。参りましたよ。



「…真ちゃん、食べても良いけど程々にね…」
「わかったのだよ、お母さん」
「ママって言ってよ可愛いから」
「やだ」
「反抗期か」


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