「高尾、いいか。これから俺の半径一メートル以内に入るんじゃないのだよ。いいな、わかったな!」

とある晴れた日、グリフィンドールとスリザリンの合同授業の際、俺はそう真ちゃんに死刑宣告をくらったのである。


***

「ジメジメうっぜぇなおい」
「全くだ。湿度が上がってしまうだろう」
「うるせぇよ…俺は失恋したんだよ…慰めてくれても良くない?」

スリザリンの談話室。俺は談話室のテーブルに突っ伏してざめざめと泣いていた。我がスイートエンジェル、真ちゃんの死刑宣告は俺のか弱いか弱いハートをぶち壊してガラスの破片にするには十分過ぎたのだ。多分俺、真ちゃんの言葉で死ぬかもしれない。
赤司はそんな俺を哀れんだ瞳で見下ろし、青峰に至っては俺の存在を無視しやがった。ちなみにさっきの慰めを請う言葉に対してこのガングロ黒スケは「あ?何か聞こえる。うわゴーストだこわっ」とほざきやがったから脛を蹴ってやった。因みに今青峰は痛みで転がっている。ざまあみやがれ。

「しかしあのクソチビ、どうしたんだろうねぇ。全く図太い神経だよ腹が立つ。和成安心しろ仇は取る」
「真ちゃんの悪口言うな殺すぞ赤いの」
「うるさい黙れ触覚。緑間厨の緑間虫。お前の為を思ったのに何だ」

いや思ってない癖に。そう言うと赤司は爽やかな笑みを浮かべた。うわ、超怖い人類はきっと破滅するぜこれは。
しかし何故いきなり。
昨日まで真ちゃんとは普通に接していたのに。いや、普通では無かったかも。俺は真ちゃんに絶賛片想い中で、全力でアピールをしていたのだが昨日はそれが少し進展したのだ。
まあ、進展といえど、いつも真ちゃんには好き好きと好意を告げているのだが、その言い方を少しだけ変えただけなのだが。

「それだよ!!!」
「うわっ、何だよ青峰…て俺今声に出てたっ!?」
「お前緑間にどうやって好きっつったんだ?!」
「いや、それは…」

真ちゃんと中庭で遭遇して、近くのベンチに二人で座った。その時に、確か俺は真ちゃんと他愛のない話をしていて、ああ好きだなぁって思って。
真ちゃんの耳元で、好きと告げた。

「……んだけど」
「こんのタラシがあぁぁぁぁあっ!」
「へぶっ!」
「うわぁ、和成…」
「な、なんで!?」
「彼に直接聞いてくれば良い。きっと和成に死刑宣告をした理由が分かるはずだから」

赤司が呆れたように笑いながら言って、青峰がバシバシと背中を叩いた。なんだなんだ、どういう事だ。


**

「…ってわけで、来ました!」
「〜〜っ!や、やだ来るな馬鹿ッ」
「はいはい一メートルだろ?大丈夫離れてるから」
「や、やっぱ二メートルで…」
「よぉし分かった三十センチな!」

あれから俺は人目を盗みながらグリフィンドールの談話室へ向かった。そこには真ちゃんがいて、彼は魔法薬学の本を読んでいた。そうして近づいて行った所真ちゃんに逃げられ、何故か追いかけっこが開始され何故か真ちゃんの部屋まで辿り着き、壁まで追い詰め、今に至る。
真ちゃんの二メートル宣告を聞こえないふりをして一気に近づいた。真ちゃんは壁にピッタリと張り付いて動かない。

「…真ちゃん、真ちゃん、俺の事嫌いになったの?」
「…はっ?」
「だって距離をおきたいって…ことっしょ?」
「ち、ちがうっ!」

真ちゃんは俯いてぶんぶんと首を振った。その反応から確かに、真ちゃんは俺を嫌っていないと分かる。
安心しながらも、じゃあ何故真ちゃんは俺を避けはじめたのだろうか余計分からなくなってしまった。
真ちゃんをじっと見つめると、時たま目を合わせて、驚いたように小さく跳ねては目を背けるその繰り返しだった。何だこいつ可愛い、天使か。

「真ちゃん!」
「や、やっ!」
「何でよ!?俺真ちゃんに引っ付きたい!死んじゃう!真ちゃん不足で死んじゃう!」
「ややややめろ馬鹿!俺が死ぬ、死んじゃうのだよっ!」
「ふぁ?」

どういう事よ?
一回真ちゃんから離れて、目線を合わせながら問いかける。
真ちゃんは目を背け、俺の胸を小さな力で推しながら口を開いた。

「…あ、あれからおかしいのだよ。お前と居ると不整脈になるのだよ、不整脈に。死んでしまう、のだよ」
「え、」
「お、お前にその、好きとか…何とか…言われても、本当不整脈になるのだよ、だから、だからダメだ」

そう言うと、真ちゃんは顔を両手で覆い隠してしゃがみ込んでしまった。やばい、これは、やばい。不整脈って、それって、それってもしかして。
俺は真ちゃんの両手をそっと掴んで顔から離した。真ちゃんの顔は林檎みたいに真っ赤っかで、思わずぷふ、と笑ってしまう。
どうしよう、こいつ、本当に可愛い。

「たか、」
「真ちゃん、可愛い、すき」
「っ!!」

真ちゃんの身体を引き寄せて、抱きしめる。温かいその体温が愛おしかった。ちゅ、と真ちゃんのほっぺに口付けると、やっ、と小さく悲鳴が上がる。真ちゃんの心臓、確かにばくばくと激しく動いていた。可愛い、可愛い。

「やだ、高尾、死んじゃうからダメだっ」
「大丈夫だよ、死なないよ」
「で、でもダメだ、本当に。離れろ、離れろ馬鹿」

真ちゃんは必死に首を振って、俺を拒絶しようとするのにも必死だった。俺はそんな真ちゃんのほっぺたを、両手で包み込んだ。顔を逸らさせないために、ちょっとだけ強めに。

「やだよ、真ちゃんと離れたら俺が死んじゃうもん。真ちゃん不足で死んじゃう」
「なっ、貴様何を…あ?」

真ちゃんは抱き締められたまま、左耳を俺の胸あたりに押し付けた。とく、とくと聞こえているだろう俺の心臓の速さに気づいたのだろう。
真ちゃんは途端に顔を青くして、大丈夫か高尾、お前まで不整脈か!?なんて頓珍漢もいい所な心配をしてきた。
もうどうしようね、俺。


結局、慌てふためいた真ちゃんを大丈夫この不整脈は人体に害はないからね、真ちゃんのもだよとよく分からない説明をしながら必死に宥めて、俺と真ちゃんの間にあったベルリンの壁(半径一メートル)は取り除かれた。
まあ、それは良かったんだけど、真ちゃんが不整脈の正体に気づくのにはまだまだ時間がかかりそうだ。





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