ぺらり、ぺらりと本が捲られる音がまだ朝練帰りの2人以外登校されていない教室に響く。少し伏し目がちな彼の顔は、長い睫毛により影を落とされていた。元来端正な顔立ちをしている彼だ。その姿は実に絵になっている。しかし、綺麗に整えられた彼の緑色の髪にちょこんと着けられている本日のラッキーアイテム様である黄色いニコちゃんマークの付いた髪留めが異様に浮いてしまってはいたのだけれど。緑間は可愛いもの趣向はあるが流石に可愛い類の髪留めなりなんなりを着ける程の趣向ではないし、第一彼は自尊心が高い上、そういう着飾り的な物には一切疎く嫌う節がある。
それでもつけているというのは、蟹座の順位が悪かった所為とラッキーアイテムを身につけた方が運気アップとおは朝のお姉さんが言っていたからだろう。
そんな真ちゃんも可愛いんだけどね、と高尾は頬杖を付きながら緑間をじぃっと見つめていた。

しばらく見つめ続けると、緑間が顔を上げ、不機嫌を露骨に表した顔で高尾を睨みつける。読書の支障になってしまっていたようだ。

緑間が読んでいた頁に栞を挟んだ。そして綺麗にテーピングされた左手でぱたりと本を閉じる。
彼にしては珍しいジャンルの本だった。

「…俺の顔を見ても何も出ないのだよ」
「知ってるっての。でも見てたいんだって」

だって、真ちゃんの事は1番俺が知ってたいし多く知りたいし。
そう本心をぽろりと口に出せば緑間は途端にぽぽぽっと頬を染める。あ、相当恥ずかしいんだなこれはと考えた所で緑間の両手でもう何も言うな、と口を塞がれた。
もがもがと抵抗すれば、口を塞ぐ両手の力が強くなり息すらままならなくなったので大人しく緑間に従う事にする。

暫く待つと緑間の両手が離れ、ふんっと鼻を鳴らして右の方に顔を逸らした。唇を少しだけ尖らせて。緑間のこういった仕草は本当に幼くて可愛い。何だか抱き締めて甘やかしてやりたくなってしまうのだ。いい子、いい子って母親が小さな子供をあやす様に。

「真ちゃん拗ねんなって」
「拗ねてなどいない勝手に解釈するな馬鹿尾」
「拗ねてんじゃんかよ、素直じゃねーのー!」
「う、るさいのだよ高尾…っ?!」

高尾は椅子から身を乗り出して、素直じゃない天邪鬼な口にはこうだとばかりに噛み付くように口付けを仕掛けた。突然の事に驚いた緑間の僅かに空いている唇の隙間に舌をねじ込んで、より深い口付けてやれば抵抗する間もなく緑間の体から力が抜けた。
そして、無意識のうちだろうか高尾のカーディガンの裾を弱々しくだがきゅっと握り締め、両目を硬く瞑って行為を享受する。体がぷるぷると震えている所から察するに、恐らく彼は息を止めているようだ。幾度となく口付けを交わしても慣れないらしい。あんな超長距離3Pシュートが打てるのに、彼は案外不器用の塊そのものだったりするのだから世の中不思議だ。

そろそろ息が限界らしい事を察して、高尾は唇を緑間のそれから離す。途端に緑間はぷはっと息を吸い込んで、けほけほと咳き込み始めた。
心配になって顔を覗き込めば、涙目で睨みつけてくる。

「…たか、お、お前…覚えてろ」

涙目で睨みつけてもただ嗜虐心を誘うだけなのに気づかないあたりこの男は本当に馬鹿だなと高尾は苦笑した。それから、御免ね真ちゃん、許してねと猫っ毛の髪に指を通して梳く様に撫でその場を誤魔化して。
彼の本日のラッキーアイテム様である例の髪留めにおまけとばかりに口付けを再び落としたのだった。



「…は?ナニ、あいつらデキてんの?木村、軽トラ」
「よしのった。幾らでも貸す」
「あ、朝から何やってるんだ!」


この光景を、丁度朝練帰りだった宮地達が偶然1年の階に来た際に見られていたと彼等が知るのは、また別の話。




綺麗な君とずるい僕


( えっ、先輩見てたんすか?うわこれで公認の仲だね真ちゃん! )
( 高尾まじで死ねよなのだよ! )



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初高緑小説がこんなgdgdでいいのか
オチは逃げ出しました




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