※ほんのり事後表現。
※年齢捏造した高尾さん26歳と緑間くんのお話。








緑間真太郎は、目をぱちくりと瞬かせた。雀が可愛らしくチュンチュンと鳴き朝を告げている午前6時30分、いつも通りの眼鏡の位置、きちんと被られたナイトキャップは変わらない。ただ一つ、変わっているのは、それは。

「…た、かお?」

隣で気持ち良さそうに寝ている、自分の恋人の姿が些かおかしいことだ。
確か昨日は…と緑間は記憶を辿る。確か昨日は、親が居ないという事で高尾を家に泊めた。そして、まあ、人には言いにくい事も致してしまった訳だが、確かその時、高尾は下着は着けたものの、上は暑いから着ないという事で、シャワーを浴び直したあとそのままベッドに潜り込んでいたはずだ。なのに今、高尾は何を着ている?見た事がない黒いVネックを着ている。誰だよお前。あと少し顔が大人びていないか?ついで背が伸びてないか?生意気なのだよ高尾、いや高尾もどきさん。というか本当お前誰だよと緑間は内心でツッコミ罵るが、何せ寝起きだ。頭が働くわけがない。
最終的に、考えに考え抜いたあと、緑間が出した結論は。

「…これは、夢だな。よし、もう一回寝るか」

もう一度布団を被り、高尾の方に顔を向けて寝そべる。その時に、ふと微かに香ったのは、煙草の香と、緑間の知らないシャンプーの香だった。

(…なんで煙草の匂いなんかするのだよ!?俺もう寝たのか?早くないか?!)

慌てて頬を右手でつねる。焦り過ぎたためか力をいれ過ぎてしまい、右手で抓った頬がヒリヒリと痛んだ。ああ、なんて間抜けなんだと落胆していると、くすくす、という低音の笑い声がすぐそばから聞こえて。

「…なぁんか、真太郎超面白い事やってんね。言っとくけど夢じゃねーから安心しなよ」
「…っ!!?」

起きていたのか、というか何を見てるんだよ、見てんじゃねーのだよ、あとやっぱりお前高尾なのか、そうなのか。それとそれと。

「真太郎!!?」
「…あー、こん時はまだ真ちゃん、だったっけか。わぁ懐かしい…真ちゃんしーんちゃん、しーんーちゃぁん」
「うぅぅううるさい!貴様誰なのだよ!?高尾とか言ったら殺す!!」
「いや、むしろこの状況で高尾ちゃん以外有り得ないっしょ。正真正銘、高尾和成でっす。年は…」

散々笑ったり呆れたりしながら会話をして、高尾はそこまで言って急に押し黙る。何だか焦れったくなって、緑間は続きを促した。

「…年は?」
「26!」

てん、てん、てん、まる。

「は、はぁぁぁぁあ!?」



***

「…つ、まりだ。自転車でこけて頭打ったら気付けば俺のベッドの中にいたと」
「ん、正直自分も吃驚だわ。まさか16歳真ちゃんに会えちゃうなんてさぁ」
「お前、そんなへらへらしててどうするのだよ?」

帰れなかったらどうするんだ、と緑間は呆れながらコップの中に麦茶を注いだ。それをソファでくつろぐ高尾に渡して、自分はコンビニで高尾が買ってきたレモンティーのパックを取り出して、それをコップに注ぐ。

「…んー、あんがと。つか俺のコップは来客用なのねぇ。高尾ちゃん妬いちゃう」
「なっ…!?」

高尾が拗ねたように唇を尖らせる。そう、高尾に渡したコップは、あくまで来客用のものだった。最近はよく高尾が家に来るから、高尾用にコップを用意していたのだが(因みにそれは、あくまで高尾が無理やり押し付けたものである)、何だかそれを使うのは高尾は高尾でも憚られてしまい来客用を出したのだ。

「昨日もお楽しみだったみたいじゃーん?何よ何よもう、幾ら自分と言えど超複雑だよね」
「なっななな、なんでっ!」
「真ちゃんの首に一個だけ隠せねーとこに痕付ける癖あんの、俺」

だから、分かっちゃったと笑う彼。まさかそんな悪癖があったなんて、高尾あとでしめる。あ、チビの方だけど。
レモンティーを口に含み、緑間は高尾の隣に、少しだけ間を開けてソファに座った。そしてテレビのチャンネルをつけ、おは朝を見るべくクッションを抱えて待機する。

「…それだけは変わらねーのな」
「未来の俺も、見てるのか?」
「ん、おは朝は終わっちまったからさ、今はおは朝を引き継いだ番組の占い見てるよ。相変わらず鬼畜だけどね」
「…へ、ぇ」

おは朝、終わるのか。
そう呟くと、10年経てば変わること沢山あるよなんて高尾が笑う。そうだ、たかが10年、されど10年だ。

「真ちゃん、ちょっと料理出来るようになったよ。レパートリーは秘密ね」
「…赤司たち、は?」
「それぞれの分野でちゃんと活躍してんよ」

それっきり、高尾は押し黙ってしまった。緑間もその沈黙を破る事はせず、おは朝のラッキーアイテム内容を真剣に見る。
今日の蟹座は、6位。まあまあだ。ラッキーアイテムは、マグカップ。

「へー、普通じゃん」
「…高尾…さん、マグカップ使いますか」
「ぶっ!」

高尾が飲んでいた麦茶を吹き出して笑った。汚いのだよ!と緑間が慌てて台布巾を持って来ると、だって真太郎面白くて、と腹を抱えて笑い出した。その姿を見てああ、本当に高尾なんだなぁと思いながらも真太郎と呼ばれた事がやはりまだ気恥ずかしくて、少しだけ抑えめに、高尾の頭をぱこんとはたいておいた。

「いちち…」
「高尾さん、大人しくしてて下さいよ。麦茶拭きますから」
「ん…あぁ、あんがとー」

高尾の側に寄り、彼の細身なパンツに染みてしまった麦茶をぽんぽん、と拭き取る。そのあとテーブルに掛かってしまった麦茶を拭き取ろうと高尾から離れようとしたところで、腕を強く引かれた。
あ、と思った時にはグラリと身体がバランスを崩し、反転された身体は高尾の伸ばされた腕の中にすっぽりとおさまる。

「た、かおさ…っ」
「ん、なぁに?真太郎」

耳元でそう囁かれ、緑間から力がふにゃりと抜けた。駄目だ、それは駄目なやつなのだ。ただでさえ高尾の低音には弱いのに、まだ慣れなくて恥ずかしくて仕方がない真太郎、という名前呼びをその低音で囁かれるなんて。
ぽふり、と顔に熱が集中する。

「…ずるい、ですよ。俺がその声弱いって知ってる癖に」
「知ってるからやったんだよ。つか敬語な真太郎とかまじ夢みたい。これやっぱ俺の夢だったのかな」
「…ばかじゃないですか」

いくら高尾だからと言えど、年上なのだから敬語にしただけです、と憎まれ口を叩き高尾の背中に腕を回す。自分が知っている高尾より若干筋肉質になっている背中が、妙に大きく感じて途方に暮れる気持ちになった。

「…んねぇ、真太郎」
「なんですか…」
「俺にさ、今日一日だけ、お前を頂戴?」

目を細めて笑う彼の瞳は、猛禽類を思わせるような鋭さを放っていた。ああ、この目は変わらないな、と思いながら最初から拒否権なんかないのだと分かっていたから、高尾の背中に回す腕の力をこめて、肯定の意を示す。

その時の、高尾の間の抜けたような笑い方は、まさしく16歳の彼そのものだった。



未来でも貴方を愛します。


「…かお、バカ尾!起きるのだよ!」

不安気に自分を呼ぶ声で目が覚めた。
そこに居たのは紛れもない自分の今の恋人の姿。帰って来たんだなと笑いながら愛しい愛しい恋人を抱き締めた。

昔の彼と同じ、シャンプーの香りを仄かに漂わせて。
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