ばふん、という大きな破裂音が魔法薬の教室に響く。それは、明らかに魔法薬の調合に失敗したがために起きた小さな爆発であり、それを起こしたのはグリフィンドールの生徒、火神であった。
黒子は小さな嘆息を零し、緑間は何も知らない顔で魔法薬の調合を完璧に成し遂げる。

「…グリフィンドール、10点」

緑間の魔法薬調合の出来具合を見た魔法薬学の先生が、苦々しげに呟いた。緑間の調合した魔法薬は完璧で、非の打ち所がなかったようだ。黒子は小さく拳を握り、よしと声を出し、緑間といえば黒子達に向かって小さなVサインを真顔で送っていた。
一方の火神は先生にきつくしかられ、しょんぼりしながら自分の席につく。机の上に無残に散らばった調合器具を見たくなくて、火神は泣く泣く魔法を使って残骸を机の真ん中に集めておいた。

実験が終わり、完璧な魔法薬を調合出来たのは結局緑間だけだったらしく、緑間の机に置かれた魔法薬が、誇らしげにちゃぷんと揺れる。

「明日までに、実験のレポートを纏めてくるように。羊皮紙5枚だ」
「…うえっ、まじかよ…」

火神の小さな不満の声は、生徒が席を立つ音にかき消された。黒子も立ち上がり、僕達も次の授業に向かいましょうかと笑う。


「次は…あー…スリザリンの奴らと、だっけか?」
「はい、次は闇の魔術に対する防衛術の授業で、…あー、赤司くんなり高尾くんなりが居ますね」
「ちっ、教室が濁る」

赤司という言葉を聞いて、緑間は小さく舌打ちを零した。マグル生まれの彼にとって、純潔主義の赤司は天敵より他ならない。げんに、赤司と緑間が出くわした時、互いの杖から呪文が飛び交いそれはそれは凄まじい喧嘩…というより最早戦争、が起きたことがあるくらいだ。

「今日は抑えてくださいね、抑えられたらお汁粉あげますから」
「…っ、本当か!?」
「はい、僕は嘘つきませんよ」
「な、なら我慢するのだよっ」

緑間の顔が嬉しそうに綻んだ。ふわふわ笑う緑間の髪を、火神がわしゃわしゃと撫で回す。ボサボサになった緑間の髪を見て火神が笑い、緑間がそれを飛び蹴りを喰らわす事で抗議した。緑間はそのまま綺麗に着地すると、腕を組んでフン、ざまぁねーのだよ!と床で伸びている火神を見やり、口角をあげニタリと笑った。周りの生徒がなんだなんだと集まってくるが、なんだいつものグリフィンドール3人組かと呆れては離れて行く。それほど、彼らは色々な意味で有名だった。しかし悪い意味だけではなくて、彼らは何かと才能に溢れ、なおかつホグワーツで起きた様々な事件を解決していることでも彼らは有名である。

周りの生徒がぞろぞろと3人を避けるようにして歩き出すと、丁度その真ん中に、黄色いフードのローブ、ハッフルパフの生徒が見えた。金髪の髪を綺麗に靡かせ、歩いてくる長身を視界の片隅に捉えた黒子は本日何度目か分からない溜息を漏らした。

「あっ、黒子っちぃい!」
「うるさいです駄犬。というか火神くんさっさと起きて下さいよ駄犬が来ちゃったじゃないですか」
「黒子っちヒドッ!あ、緑間っち、おはようっス!」
「…お、はよなのだよ」

緑間は警戒したように黒子の後ろに隠れた。それを見て、黄瀬はまだ懐いてくれないんスかぁと寂しそうに笑い、緑間の髪をくしゃりと撫でた。緑間は肩を僅かにはねさせながらも、目を細め気持ち良さそうにそれを享受している。

「…身長、まだ戻らないんスね」
「えぇ、赤司君しか戻し方分からないみたいで。まあ本人はこの身長気に入ってるみたいなんで全然大丈夫なんですがね?」

緑間は今こそ黒子や火神より小さいが、昔は180cmを余裕で越した長身の持ち主であった。しかし赤司と衝突した際、赤司の呪文を避けきれず喰らってしまい、緑間は小柄な体型になってしまったのだ。どうやら赤司がかけた呪いはそういう呪いだったらしく、赤司が言うに、

『貴様ごときが僕を見下ろすなど絶対許さない』

だという。
緑間は小さくなった身長を駆使して、赤司に様々な悪戯という名の嫌がらせをしてはケラケラと笑うのが最近は楽しいらしく、この小さい身長も中々いいものだな、と笑って居たのだが。

「…っあ、次は闇の魔術に対する防衛術ッスよね。周りの子達が噂してたッス!」
「はい、緑間君には我慢すればお汁粉を奢る約束しました」
「頑張るのだよ」

えへん、と誇らしげに緑間は胸を張る。
黄瀬は大丈夫だろうか、と若干心配しながら緑間の髪を一撫でしてじゃあ俺は占い学行って来るね!と笑いながら走って行った。

「…嵐が去りましたね」
「黄瀬、いい奴なのだよ」
「おい、こいつ撫でられただけで絆されたぞ」
「んむ、火神うるさいのだよばか。はやく行くぞ」
「…そうですね、行きましょうか」

緑間が黒子の手を、黒子が火神の手をとり3人は一斉に走り出した。
ちなみに最初は黒子が主導権を握り走っていたのだが、次第に火神が主導権を握り、緑間と黒子が助けて止まって死ぬ疲れたと喚きながら教室まで走り続けたのはここだけの話である。



*****

「…おや、グリフィンドールの皆さんじゃあないか」
「はぅ…真ちゃん今日も天使…あだ!」
「んおー!火神にテツに緑間じゃねーか!」
「青峰!」

教室についた3人を一瞥し、スリザリンの赤司、青峰、高尾の3人組が声を掛ける。
火神は青峰とハイタッチを交わし、
黒子はその挨拶を、顔を引き攣らせながら受け流した。
そして、隣で既に猫のごとくフーッフーッと短い息を漏らしながら威嚇している緑間に声を掛ける。

「…緑間君、落ち着いてくださいね」
「…おしるこおしるこ、俺はおしるこしか見えてない大丈夫、あの赤いのはおしるこ」
「それも困りますが…」

おしるこ、おしるこ、と連呼している彼の背中を撫でて宥める。
出来るだけスリザリンの面子と席を離して座る方が彼のためになるだろうと、左側1番前の壁際から3人で腰掛ける。

「あたっ」

何かが頭にこつりと当たり、黒子は辺りをキョロキョロと見渡した。
すると、机のしたに鶴状に折られた白い紙が落ちていて、それを拾う。
『DEAR.真ちゃん』
その文字を見て、高尾君からか、とわかる。緑間を真ちゃんと呼ぶのは高尾だけだからだ。

「緑間君、高尾君からです」

鶴を渡し、高尾に向けて渡しましたよ、と合図しようとしたところで、自分の失態に気付いた。
高尾が必死に、
『俺じゃない俺じゃないそれ赤司からだから!』
と口パクしながら顔の前で罰を手で作っているのが見えたからだ。

「みどり…っ!」

時、既に遅し。
緑間は既に鶴状に折られた紙を崩し広げていた。
そしてプルプル震えている。
火神と黒子は、鶴に書かれていた文字を確認するために身を乗り出した。

『高尾かと思った?残念君の愛しのあ、か、し、だよ!』

ああ、これは駄目だ。
黒子は仏のような笑みを浮かべて教科書を頭に乗せた。
火神は大きく息を吸い込み、叫ぶ。

「全員死にたくなけりゃ教科書を頭に乗せて伏せろ!!」

そこからは全員速かった。
生徒全員頭に教科書を乗せ、一斉に机に伏せたのだ。
それを合図に、緑間は杖を引き抜く。

「麻痺せよ!!」
「縛れ!!」

瞬間、互いの杖から閃光が迸る。その閃光はぶつかり、相打ち、そして新たな閃光を産んではまたぶつかるの繰り返しだった。言っておくがこれは授業前の僅かな休みの出来事である。つまり先生が来るまではこの状況が続くわけだ。

「……護れ!!」

それを察した緑間は、周りの生徒全員を対象に魔法を掛ける。
そして再び呪文を唱えようと口を開いた際、失態に気付いた。
そう、彼は一瞬だが周りの生徒に意識を向けた。赤司から意識をそらして。それを赤司が見逃すはずもなく、赤司の放った呪文が杖から迸る寸前だったのだ。

「緑間…っ!」
「緑間君っっ!!」

(まにあわ、な…!)

緑間は目を瞑る。
その時、

「武器よ去れ!!」

瞬間、赤司の手から杖が吹き飛ぶ。
呆然と杖を眺める赤司を押しやり、飛び出してきたのは。

「…たか、ぉ」
「真ちゃん!!大丈夫?!当たってない…かぁ、良かった…」

がくん、と崩れ落ちた緑間を咄嗟に支え、背に隠したのは高尾だった。
安心した様な間抜けな笑みを浮かべる高尾を見て、緑間もふにゃりと気の抜けた笑いを浮かべる。

「…和成、お前」
「赤司、もういいっしょ?やりすぎ」
「……邪魔を、するな」
「いくらこの子に執着してるからってさぁ、これはねぇだろ?」
「執着なんかしていない!!」
「じゃあ尚更やめよう?ほら、教室一緒に直すよ」

高尾が杖を一振りすると、教室内の乱れてしまったもの全てが一気に片付いた。赤司はといえば高尾の背中越しにいる緑間に、一時休戦だ。言っておくが今回は僕の勝ちだからなと吐き捨て席に戻る。
高尾も、じゃあ後でね真ちゃんと笑ったあと、自席についた。

「…緑間、くん」
「黒子…すまない」
「構いません。それより今回は危なかったですね」

無事で良かった、と笑う黒子に苦笑を零し、緑間は席に戻る。
ちょうどその時、先生が入ってきたわけだが、クラスの一部が教科書を被る有様を見て状況を察し、グリフィンドールおよびスリザリンの3人組計6人が呼び出されたことは言うまでもない。



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