信じられますか、あれで付き合ってないそうですよと。
バニラシェイクをちゅうちゅうと吸いながら顎をくいっと窓の外へ向けた黒子っちの視線の先には、ピンク色のオーラを纏った緑間っちとその相棒の姿。

「…緑間っちと高尾君のことっスか?」
「ええ。黄瀬君もあの2人付き合ってるもんだと思ってたでしょう」
「まあ…黒子っちもっしょ?」
「えぇ、でもあの2人、付き合ってないんですよ信じられます?」
「…はっ!?」

びっくりですよね、と黒子っちは半ば飽きれたように空になったカップをゆらゆらと揺らした。
俺はと言えば、びっくりしすぎてハンバーガーのレタスを落とす始末。
…正直信じられない。
だって、高尾君は緑間っちの腰にがばっとかじりついており、抱き着かれている緑間っちの顔は茹でたタコさんウィンナーのように真っ赤。
そしてぽかすかと頭を殴ってる。アレは痛いだろうなぁと思いながら高尾君に視線を戻すと、ああ案外大丈夫みたいむしろ喜んでる気がした。
高尾君はにへにへとしまりのない顔で笑っている。緑間っち教信者の本気をモデルは見ました。まさか痛みですら本望ですと言いたいのかあの男は。

「…あれで、付き合ってないと」
「ええ。この前お2人に何ヶ月目ですかと聞いたんです。そしたら何て返ってきたと思います?」

何ヶ月目って何が?え?付き合ってる?ダレが?俺と真ちゃん?
エッ!?ないないない!やだやだキモいってそれ、緑間と付き合うとか爆笑。
あれっしょ、生活全部緑間真っしぐら。
みどりまっしぐら的な?ぶふっ。

つまらんギャグ言うな。そしてそれはこっちの台詞なのだよ、第一高尾と付き合うなどまさに人生の汚点。破滅へ真っしぐらだな借金人生の始まりなのだよああ恐ろしい。

いや、それこそ俺の台詞。お汁粉代で家計潰れっから。俺の財産潰れかけてんだぜ?これ以上お汁粉お汁粉言われたら俺の金が真ちゃんに食いつぶされる。


「…とまぁ、こんな具合に会話してたんですが途中から2人の世界ですよ」

それでですね、と続ける黒子っち。
でも俺はそれどころじゃない。何故なら先程の黒子っちの報告の気付いてはならないものに気付いたからだ。
…ああ、どうしよう、無自覚って怖い。

「…く、ろこっち」
「何ですか黄瀬君、話はまだ…」
「…あの、さ。あの人達さ、」

…途中から、付き合うって事から結婚前提に話がずれてないっスか?


てんてんてん、まる。

「えっ…?」

黒子っちは一瞬硬直したかと思うと、目を見開いて俺を凝視する。
黒子っち、その顔夢に出てきそうだからやめて。怖い。


「……黄瀬、くん」
「…黒子っち、多分あの人達付き合ってる付き合ってないの問題じゃなくて」

無自覚の、両片思い。
深く温かい友情に隠れた、深い深い愛情。
つまりそういう事なのだろう。
相棒として、親友として、家族として、人として。彼等はお互いを好いたのだ。気付かぬ間に。無自覚のままずるずると。何ともどかしい奴等なのだろう。

「…猿並みの鈍感がお互いに惹かれ合うって」
「怖いっスねぇ…」


これは僕等の出番ですね、ワトスン君


(あの馬鹿2人の無自覚の恋を)

(成就させてやるのが友の役目)




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