今日も世界は平和である。いつものように朝早く、ジャージ姿でいってきますと母親に挨拶をし、お隣のペットであるミミちゃんに挨拶、そして更にお隣である次郎爺ちゃんに挨拶をし、俺の平和な一日は始まるのだ。

本名は誰も知らなくていい、だからここではモブと名乗らせていただく。謎が多いキャラは好かれやすいと聞いたのだが、それは本当だろうか。正直すまんかった、調子に乗りましたすみません、本当はそんなでしゃばれるキャラではないんです。
さて、自己紹介も終えた所で、まず何故俺が筆を取ったのかについて説明させて頂きたい。それは、俺が所属している秀徳高校バスケ部の1年エース様と、その相棒はいちゃいちゃしているので有名だが、文化祭が近い今それが激化しているからである(当社比)。
皆さんにも、その実情を知っていただきたいのだ。長くなってしまうが、お付き合い願いたい。


俺はそのエース様と相棒の2人と同じクラスだ。ちなみに俺達の文化祭の出し物は男女逆転メイド喫茶…などという超王道中の王道ではない。俺達がやるのは不思議の国のアリス喫茶だ。
くじや、推薦で選ばれたメンバーがアリスの登場キャラのコスプレをし、接客をする。
ここまでは良かった。ちなみに俺は推薦なぞで選ばれるような恵まれた顔面ではなく、更にくじも外れてくれたため普通のウエイターである。担当は会計。非常にありがたい。
それと、神に恵まれた容姿を持つ2人は当然推薦で選ばれ、エース様は時計うさぎ、相棒はチェシャ猫だ。
正直かなり似合っていた。ためしに作った試作品を着た2人は様になっていて女子たちが写真をパシャパシャ撮っていたものだ。羨ましい、俺も女子たちにキャーキャー言われて写真撮られたい。

話がそれたが、問題はここからだったのである。クラス委員長(美人だが腐女子)の発言で、それは起こった。

「なんか、普通に喫茶もつまんなくない?1時間くらい限定で、アリスを女装とかにしようよ!」

と仰られたのである。ちなみにこの時クラス委員長は相棒君を凝視していた。クラス委員長はエース様×相棒推しなのである、だが残念だったな同じバスケ部から言わせてもらえばあれは相棒×エース様だぜ。

その時、ちょっと待て!という悲鳴が響いた。まさかのエース様である。エース様が叫んだ、それだけで世界は大きな変動を迎えるー…。
またまた話がそれたが、普段エース様は叫んだりはしない。昔よりクラスに馴染み、今では相棒と2人でクラスの中心人物ではあるが、彼はいつだって一歩引いて、相棒とその友人が楽しそうに喋るのを黙って聞いていたり、勉強を教えたり、とにかく彼は静かなのだ。まあバスケ部では相棒に向かってよく怒鳴るが。

そんなエース様の悲鳴を聞いて、クラス委員長が目をぱちくり。ああ、これで腐女子じゃなければ完璧なのに。なんて運命は残酷なんだ。

「ど、したの?緑間くん」
「…それは、当たりくじで決めるのか」
「うん、そのつもりだけど…」
「…っ!!パス、パスパスパス!!!俺はやらないし引かないのだよ!!!」

首をぶんぶんと振り、必死の形相でいやだやりたくない俺は引かないとエース様が叫ぶ。クラスの皆、約一名を除く全員の表情は、まさしくポカーン。
ちなみに約一名、相棒は必死に笑いを堪えている。

「真ちゃん?我儘はよくねぇのだよ?」
「真似をするな!第一、お前が1番俺のこと分かっているはずだろう!?」

はい、問題発言きました。きっと、エース様はそんなつもりで言ったんじゃない、でもエース様よ…流石にそれは、それは駄目だ、腐がつく女性陣が死んでしまういろんな意味で。

「わーってんよ、真ちゃんは、必ず『当たりがきちまう』んだもんなぁ?」

相棒が楽しげに笑う。ああ、そういう事かと理解した。エース様は運に恵まれているといっても過言ではないくらい、運が良い。それはラッキーアイテムのおかげでもあるのだがそうじゃなくて、当たりくじでやる場合、アリスに当たるのは当たりを引いた人、つまり。

「真ちゃんが必ず当たっちまうってことよ。まあ俺的には万々歳?アリス真ちゃん超見たいし!」

からころと笑う相棒に対し、エース様の顔は不服そうな顔である。まあ、案外大丈夫だったりするだろうとクラスメイトが励まし、結局当たりくじを引くことになったのだが案の定、エース様の引いたくじの先端には赤い印。それを見た時のクラス委員長の落胆ぶりと、バレー部部長の喜び様と言ったら。

「……だから、言ったのだよ…っ、だから俺は嫌だと!」

エース様、声が涙声でいらっしゃる。やめろ、195cmの巨体で目をウルウルさせたって可愛くない…訳がなかった、そうだこいつは無駄に顔が良かった。美人だったワスレテター。

「しんちゃ…っ、ぶっほぉ!!ぶは…ま、どんま…ぶふっ!」
「高尾…殺す」

エース様、絶対零度の瞳で相棒を睨みました。相棒は、逃げました。しかし、エース様、強かった。って思わず片言になるくらいにエース様は怖かった。武器がシャーペンというのが地味にくる。そして、数秒後相棒の絶叫が教室内に轟いた頃には、黒板のアリス役のところにエース様の名前が何故か震えた時に書いたように歪曲しながら書かれていた。間違いなく、クラス委員長が泣く泣く書いたんだな、本当はそこに相棒の名前を書きたかったんだよな、うん。ちなみに相棒はいかれた帽子屋の役になりました。



***

結論から言わせていただこう。
エース様のアリス姿は超生えていた。多分クラスの他の男子がやっていたら目の毒だったかもしれない。しかしエース様が持っている美人スペックがうまくマッチしてしまっていて、全くではなかったが違和感があまりなかったのだ。でかかったのに、解せぬ。

ただし、エース様は声が低い。所謂イケボと言われるアレである。だから、途中から接客を諦め、エース様には席をぐるぐる回ってもらうことにした。それだけで大丈夫だろうか、と半ば心配していたのだがとんでもない。回るだけでも十分だった。客が記念にと写真を撮ったり笑顔を頼んだりそれはまあ人気だった。エース様、とまどいながらも人事を尽くすという座右の銘に従い一生懸命声を出さずに接客をしていた。

そんな中、面白くなさそうなやつが約一名。みなさんお気づきかもしれない、そう、あいつである。相棒である。
相棒、めちゃくちゃ嫉妬してた。エース様が笑顔を振りまいたり、写真を撮られたりするたんびに歯ぎしりして、接客どころじゃなかった。


「…緑間、あとでお仕置きだな」

…そうだ、聞き間違いだ。聞き間違い、まさかオシオキだなんていうアブノーマルな発言、相棒の口から出るわけない。しかし、クラス委員長のイヤァァァという叫び声とバタンッという倒れる音が否定をさせてくれなかった。あと客がびっくりする、やめろ。

「…俺にだってあーんな笑顔見せてくれた事ねーのにさぁ?」

やめろ、相棒。顔が素晴らしいことになってる。そして目がマジだ。エース様、俺、明日お前のためにサロンパス持ってきてやるよ、と心で合掌。

翌日、緑間と高尾は風邪で休みですという連絡が入り、クラスメイト全員が緑間に合掌したのは言うまでもない。




教室がピンク色


どれもこれも全部、お前らが悪い。

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