※ローゼンメイデンパロ



それは美しい人形だった。箱の中に蹲るように眠るその人形を取り上げて眺めれば眺めるほどに美しい。風で翡翠色の髪がさらりと靡いて、硬く閉じられた長いまつげが同じようにふるりと震えたその姿はとても妖艶だった。

友達には恵まれていた。女性にだって困ったことはなかった。高尾和成はいつだって彼の世界のスターであり中心だった。自分が思った通りに事は運んだ、女性は自分の作り笑いに簡単に騙されて言いよって来る。最初は悪い気はしなかった。最初だけ。でも今は。

(反吐が出るねぇ…)

そんな時にふと届いたメッセージ。
あなたは当選いたしましたという嘘八百な内容のあとに、巻きますか、巻きませんかという選択技が与えられていた。何を巻くと、いやそもそも当選ってなんだ。もやもやと考えたが、これはこれで面白そうだった。もしかしたら、自分の反吐が出るような世界を変えてくれるかもしれない。

迷いはなく、巻きますかの部分をタップした。

(…まさか、これだったなんてなぁ)

翡翠色の髪に指を通す。
まるで人間のようなつくり。頬を人差し指でつけば、ぷにっとした柔らかい感触。ああ、なんて可愛い。
洋服は、クラシックな雰囲気のブラウスとズボン。紐リボンはきゅっと結ばれ、ブラウスには所々レースが施されており非常に愛らしい。
そう眺めていると、人形のブラウスの襟の下当たりに、ネジ穴があるとがわかった。
ネジ穴がある、ということはこの子は動くのか。

「……どーやったら動くんだ、これ。ネジ穴あるし…ん?」

人形が入っていた鞄をみると、小さなネジが入っていた。可愛らしい、しかし上品な薔薇の彫刻が施されたネジだ。それを取ろうと手を伸ばし、ネジを取り上げる。そのネジをネジ穴に差し込んだ。
その時。

「はっ!?」

キリ、キリ、キリ。
人形のネジが勝手に巻かれ、ふわりと高尾の腕の中から浮かぶ。
高尾は、腰が抜けて座り込んだ。ピクリとも動けない。
なにが、起きている。
そして、人形の服から光の粒が浮遊した。それは人形の周りをくるくる回る。まるで、守護霊のように。

「…あっ……」

人形の目が、
ぱちりと、
開いて、
吸い込まれる。
ああ、なんて美しい。

人形はふわりと降り立つ。そのままてこてこと高尾の前まで歩いてくる。大きな目をぱちぱちと瞬かせて、ぷっくりした唇をきゅうと一文字に結んで。

「…お前が、巻いたのか」
「ふぁっ!?ふぁい!」

目を細め、眉間にしわを寄せて高尾を見つめた。先程の可愛らしさはどこへやら、今の態度は憎たらしく可愛げなど欠片もない。ギャップがありすぎる。なんだこいつ。

「…不覚だ…まさか貴様のような軽薄そうな餓鬼にネジを巻かれてしまうとは。しかしホーリエが選んだ相手だ…しな」
「は、はぁ!??い、意味わかんない、つか何で俺そんなぼろくそいわれ…」
「高尾和成、今日からお前はこの俺、ローゼンメイデン第5ドール真太郎の下僕なのだよわかったか、わかったらおしるこを持って来い5分以内に」

意味がわからない。
唯我独尊すぎる。我儘すぎる、意味がわからない。意味がわからないから、おしるこを取りにいかないでいいですよねと冷静な頭が働いてその場に固まったままでいると、

「なっ、なぜ動かないのだよばかっ!ばかばかっ!おしるこ飲みたいのだよばかぁっ?」
「ぶっ!?」

ぽっこー!と効果音がつくくらいに顔を真っ赤にさせて、全然いたくない攻撃をしかけてきた。ぽかすか殴られた箇所は全く痛くない。身長差ってすげぇと思いながら、高尾はおしるこないもんと言うと真太郎の目が見開かれた。

「おしる…こ、ないのか!?」
「うん、ないよ」
「…1015671時間我慢したのに…」

しょぼん、と項垂れた真太郎は鞄に戻って行く。そのまま鞄を閉めて、開けるなよ今から俺はいじけるのだよ!と吐き捨ててぱたんと鞄を閉じた。いや、開けるなよと言われてもですね真太郎さん、鍵はこちらから掛けられるんですよつまり今施錠は…

「できてませーん」
「んなっ!この下僕!開けるなと言ったばかりだろう!」
「いやー…だって面白くて…」
「ばかっ、ばかばかもう知らん!こんなんがマスターとか嫌だ恥だ嫌なのだよっ」
「…んえ?マスター…とは」

ん、と緑間が小さな手のひらを差し出した。そこにあったのは茨の彫刻が施された指輪。

「お前は、俺の力の媒介になるのだよ」
「ばいかい…?」
「ああ、俺の力の拠り所になるのだよ。あ、ちなみにこの契約をすませないとお前は死ぬ」
「はっ!!?聞いてねぇよ!!?」
「ああ、今まで忘れていた。んで、今思い出したすまん」
「いや、すまんじゃなくて!」
「契約するのか、それとも死にたいのかどちらか選べ、愚民」

真太郎の目は、真剣ながら蘭々と輝いている。ああ、吸い込まれそうだ。相変わらず、とても美しい。思惑だったが、彼の小さな頬に自分の手を添えて、瞼の近くに口付けを落とした。

「…っな!?」
「よくわかんねーけど、契約ってのしてやんよ、お姫様」

指輪をうけとり、左の薬指にはめた。なんだが、こうするべきだと思ったのだ。そしてそのまま、本能的にその指輪にくちづけを落とす。指輪は突然光り、禍々しい姿へと姿を変えていた。

「ぬぁっ!?」
「…契約、成立だ。よろしくな、下僕。ふぁあ…おしるこ飲みたい…」

我儘な人形は、鞄を再びパタリと閉め、そのまますやすやと眠ってしまったようだ。指輪は、不思議と暖かく感じた。何故だろう、すごく暖かい。

「…ったく、変わりすぎだろ俺の生活」

苦笑を漏らし、よっこいせと立ち上がる。近くの自販機に、おしるこあったかなぁと考えながら。



待ちに待った非日常


高尾、これは…と真太郎が凝視したのは、自販機にあったつめた〜いおしるこ。これでいい?と尋ねると、真太郎はふわりと微笑んだ。





ローゼンメイデンは大好きな作品なんです。思惑パロってしまいました。本当は青峰くんだしたかったんですが…とほほ




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