対になったマグカップに、色違いの歯ブラシ。100均で買った安いものだけれど、お揃いと言える日用品がこれからの自分達の生活を物語るようで少し恥ずかしい。 「こんなもんで良いだろ。つか俺だけに持たせんな、轢くぞ」 「先輩の方が年上だし、いいじゃないですか。それともなんですか、先輩は非力だったんですか」 「てめ、マジで覚えてろ。絶対轢く」 冗談です、とムカつくけれど可愛くて愛しくて仕方がない生意気な後輩がふわふわと笑った。それで絆されてしまう俺も相当末期かもしれない。照れ臭くて仕方なくて、すんと鼻を鳴らしてその場を誤魔化した。 緑間はと言えば、ふわふわと笑ったまま、みやじさんみやじさんと俺の服の裾を摘まんではくいくいと引っ張っている。絶対振り向いてなんかやらねぇ。振り向いたらどうなるかくらい分かってるから。恥ずかしくて堪らなくなるから。 なのに、みやじさん、と呼ぶ声が少し寂しげになるものだから本当に居た堪れない。 「…っ、何だよ馬鹿!うっせーよ轢くぞ…、」 「みやじさん、」 綺麗な緑色の髪が、さらりと揺れる。 そのまま、俺の肩口に吸い込まれるようにして視界から消えた。 何が起きた。いや、わかっている。 緑間が、あのツンデレ世界代表に選ばれるんじゃないかというくらい素直じゃない緑間が、俺の首筋に顔を埋めて、甘えるようにぐりぐりと擦り寄って居るのだ。人通りが少ないとは言えど道来で。あの恥ずかしがり屋が。それを意識すれば意識する程顔に熱が篭るのが分かった。 先程買ったばかりの品物が、互いにぶつかりかちゃりと音を立てる。夏だとは言えども夜なのだから多少は涼しいはずなのに、この馬鹿の所為でむしろ暑くなってしまった。 何だか恨めしくなって、急にデレを見せた卑怯な恋人を盗み見ると、ああ何だこいつ、恥ずかしがってるじゃないか。耳が真っ赤だ。 「みーどりま」 「…やだ」 「顔上げろって、なぁ緑間ァ」 「………やだ」 「…強情、可愛くねぇの」 「…っ、うっさい!」 緑間は反射的に顔を上げる。 途端に、しまったとでも言うように顔がくしゃりと歪められた。俺はと言えば、してやったりというしたり顔。 予想通り、いやそれ以上に緑間の顔は真っ赤だった。 先程まで、宮地さん宮地さんと繰り返し呼んでいたのは、照れ隠しか。何だか面白くて、顔をずいっと近づけてやる。それこそ唇が触れるそのギリギリまで。 そうしたら、真っ赤だった顔を更に真っ赤にして、口を金魚のようにパクパクさせ始めた。 「前言撤回、やっぱお前可愛い」 「ちょ、宮地さ…顔ちか…」 「緑間ァ、今から俺お前にちゅーすっから」 「……っ!?」 「拒否権、ねぇからな」 そう言って、近づけていた顔を更に近づけ、緑間の唇に自分のそれを重ねてやる。女子ほどは決して柔らかではないが男子のそれにしては柔らかさを持つ彼の唇と触れ合う時は、何だか嬉しくて歯がゆくて、胸がきゅうっと締め付けられるようなそんな感じがする。 固く閉じられた瞼と、ガチガチになっている肩、そして少し曲げられた足。緊張しながらも、それを受け入れようと必死になってくれている、そんなこいつが堪らなく好きで。 でも、やはりそんな可愛い反応をしてくれる恋人を見れば、少し虐めたくなってしまう。家に帰り、こいつが油断をしているところで、今度は噛み付くようなキスを仕掛けてやろうとほくそ笑み、唇を離した。 愛しさが溢れ出た。 |