甘え下手な君に救いの手を


親の愛情を知らずに育った子ほど、甘え方を知らない。心は愛を欲し、愛に餓えているというのにそれだから、困ったものである。
出会ったばかりの彼の瞳は、光などなく深い深い闇を抱えて、その黄色く琥珀のような綺麗な色彩をも濁らせていた。お日さま園にやってくる子どもたちには珍しいことではないが、他の子どもに比べたらその酷さは一目瞭然だった。
最初は触れることさえも拒否された。触れればその手を振り払われ、その深い闇を孕んだ瞳で睨まれた。その瞳は訴えていた。「愛が欲しい」と。

現在は大分丸くなったが、まだまだ手がかかるようで。


「どうしたんだい、転んだ?いじめられた?」
「うるせー!ほっとけ」

お日さま園の自室に割り当てられた部屋で、マサキは一人涙を流していた。
通っていた訳ではないが、昔自分も随分お世話になった雷門中に最近転入したから様子を覗きに来たらこの状態。

「だいたいなんだよ…転んで泣くとか、オレそんな子どもじゃねーし」
「そうだよね、マサキはもう中学生だもんね」

中学生は思春期に入りとても難しい時期ではあるが、その思春期が彼にちゃんとあれば、とりあえずはちゃんと成長している証拠だ。
両手で涙を拭いながら静かに泣くマサキの近くへ寄り、俺は両手を差し出した。

「ほら、おいで」
「…だから、子どもじゃねーって言ってんじゃん」
「いいから、おいで」

抱っこしてあげる、と半ば無理矢理マサキの両脇に手を差し込み、抱き上げる。
やめろ、はなせと抵抗されたけれど、中学生男児の力ではまだまだ成人男性には敵わない。
胡座をかいた膝の上に向かい合わせになるように抱き留めれば、瞳に溢れんばかりの雫を溜めて、こちらを睨み付けていた。

愛を知らなかった子どもだから、甘えることに慣れていない。愛を与えられることに戸惑う。

「たまには、甘えたっていいじゃないか」

何があったかわからない。しかし悲しんでいたら一緒に悲しんであげるのが家族だ。

「誰にも言わないから、思う存分泣くといいよ」

静かに囁いて、頭を胸へと押しつける。仕事の後だったからちょっと高めのスーツを着ていたが、彼の心を落ち着かせるためなら濡れることだって構わない。
腕のなかで段々と大きくなっていく嗚咽を漏らす彼の頭と背中を撫でながら、泣き止むまでずっとそうしていた。

愛しい彼のために。



甘え下手な君に救いの手を





一頻り泣いて、顔を伺えば酷い涙の跡。親指で拭ってやれば、こちらに気まずそうに視線を送ってきた。

「これ……ごめん、なさい」

どうやらスーツを涙で濡らしてしまったことを言っているらしい。
あーもう、どうしてそんなに可愛いんだろう。
思わずぎゅーっと抱き締めて、可愛い額に口付けをひとつ落とした。




writer:咲さん

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