大学3年にあがって、2ヶ月。

春に配属された研究室にも慣れ、先輩の卒業研究の打ち合わせもひと段落ついた。新しく始まった講義や実習、下の学年との合同作業に戸惑うことも多いけど、なんとか充実し始めた6月。3日前に1年付き合った彼氏と別れて未練たらたらな、そんな6月。


いまだに、全然慣れない相手がいる。








「朱莉ちゃーん」

ウェーイ、とその巨体が私の背中にのしかかる。

「重いですよ黒尾先輩」
「んー?」

黒尾鉄朗先輩、4年。研究室の先輩で、なかなかに食えない人。いちど講義が一緒になったくらいで、言葉を交わすようになったのはこの4月からだ。

「もうっ、4年生なんだからうぇーいとかやめてください恥ずかしい」
「あー?」
「重いですって。・・・でぶ」

どすり、とさらに体重をかけてくる。身長190cmに近いであろう先輩に悪態をつくと「誰がデブだこら」と二の腕をつままれた。ぶにぶにじゃねーかと鼻で笑うこの人、イケメンはイケメンだがすこぶる失礼な性格をしている。遠くで見る限りは人あたりのよさそうな雰囲気だったので最初は意外に思ったが、いちいちこんなふうに構ってくるのでもう慣れた。

「・・・千代さんどこですか」
「上村まだ来てねーよ、なんか用?」
「卒研のことでちょっと」
「あいつ就職組だろ、就活じゃねーの」

そっすか、と自分の机に鞄を下ろす。困った。今日中に確認して教授に提出しなきゃならないレジュメがあるっていうのに。「斎藤コーヒー淹れて」・・・黒尾先輩にこき使われながら待つしかないっていうの。千代さん早く。

「先輩そろそろ院試じゃないですか」

先輩のPCの横にコーヒーを置きながら訊く。「おう、2週間後」コーヒーを一口すすって、満足げに笑う。

「さすが、俺の好みわかってる〜」

黒尾先輩はコーヒーが飲みたい時必ず私を使う。4月から変わらないので先輩好みのコーヒーなんてすぐに覚えた。砂糖なし、ミルク少なめ、コーヒー濃いめ。「斎藤のコーヒーあったら院試なんて楽勝だな〜」にやにやしている先輩に「顔気持ち悪いです」と言い放つ。

「ちょっとは応援してくれよ」
「してますよ。ガンバッテクダサイ」
「うわー、上村の実験失敗したらいいのに」
「ちょっとなんてこと言うんですか」

そうやって軽口を叩き合っていると研究室のドアががちゃりと開いた。

「おつかれー」
「おー」
「千代さん!これ!確認!提出!」

入ってきたのは案の定千代さんだった。上村千代さん、私が卒研を手伝っている先輩。この人ちょっと抜けてるというか、適当というか。私がしっかりやらないと。そんな気にさせてくれる・・・というか、させられるというか。

「朱莉ちゃん矢継ぎ早だよー休ませてよー」

スーツ姿の千代さんが私の隣に腰を下ろす。黒尾先輩が言ったように就活帰りなのだろう。

「だめですこれ提出あと1時間です」
「えーなにそのレジュメ・・・・・・日程表か・・・」

急に説明会入るんだから実験日程なんてわかんないわよ!と机に突っ伏す。たぶん今日の面接もうまくいかなかったんであろう。

「上村〜あんま後輩困らすなよ〜」
「大丈夫よ、朱莉ちゃん優秀だもの」
「いいなあ、俺にも優秀な助手後輩ほしい」
「私黒尾先輩だけは嫌です」
「なんでそういうこと言うんだお前は」

机のしたで脚を蹴られる。そういうとこですよ!と言い返しながら千代さんを机から引き起こしてレジュメを渡す。

「ほら!スケジュール帳出してください!」
「んむー・・・。朱莉ちゃんは日程いつがいいの?」

言いながらしぶしぶと手帳を開く。「私はいつでもいいです暇なんで」答えると「お前そんなんで彼氏いいのか」と黒尾先輩に突っ込まれる。

「・・・・・いいんです、別れましたから」
「え、本当に!?」
「くわしく」
「いいから日程決めますよ!」

驚く千代さんと俄然ニヤニヤしだした先輩を一睨みして、私はこっそりとため息をつく。



──この人たち、本当めんどくさい。







研究室のネコ 01






「おいあいつどういうことだ」「3人で飲みに行こう、今日行こう、全部聞き出そう」「ノった」





「やめてください本当・・・・・」






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