「友達からでも、考えてみてくれるかな」
同じクラスの赤葦くんに、そう告白されたのが3日前。

「よし、私に任せろ」
悩んだ末、バレー部に彼氏がいる部活の先輩に相談したのが2日前。

「みょうじ、明日空いてる?」
同じく先輩に土曜日の予定を聞かれたのが昨日。




そして今日、私の目の前には私服姿の赤葦くんがいる。








騙された初恋









じゃあ私たち行くから!と先輩は彼氏とどこかに消えてしまった。昼下がりの原宿、私は赤葦くんと2人取り残されてしまったのだ。・・・どうしろって言うのだろう。

告白の返事はまだ返してない。考えてみて。そう言って赤葦くんは部活に行ってしまったし、普段あまり言葉を交わす間柄でもないのでタイミングに困っていた。・・・返事もまだ決まっていないけど。

なので今、すごく気まずい。返事したほうがいいのかな。ああ。今年の7月はどうも暑い。都会のド真ん中だっていうのに蝉がうるさくてたまらない。心臓がドキドキする。


「・・・みょうじさん」
「ふぁ、はい、なんでしょう赤葦くん」
「とにかくどこか入ろう」

ご飯食べた?赤葦くんの問いに頷く(集合は14時と遅めだった)。


「スタバとかでいい?」
「あ、うん、どこでも」


歩き出す赤葦くんの隣に並んで私も歩く。赤葦くんは背が高い。足も長い。それでも私が置いていかれないのは気を使ってゆっくり歩いてくれているからなんだろう。

お店に入ると、混んではいるが座れそうだったので注文する。赤葦くんはアメリカーノを頼んでいた。甘いのは苦手なんだろうか。


「今日、ごめんね」

席につくと謝られた。俺もびっくりした、と彼は言う。赤葦くんも昨日、先輩の彼氏である彼の先輩に急に誘われたらしい。「なんか怪しいと思ったんだけど、まさかみょうじさんがいるなんて思わなかった」と眉間にしわを寄せている。

「そんなの全然大丈夫だよ」
「ならいいんだけど」

甘いフラペチーノを一口飲んで、「そういえば今日は部活ないの?」赤葦くんの所属するバレーボール部は確か全国クラスの強豪チームだ。さぞかし練習もたくさんあるはず。

「今日は1日休み」
「・・・そんな貴重な日を。ごめんなさい」

なんでみょうじさんが謝るの、と赤葦くんが笑う。あ、笑った顔、ちゃんと見たの初めてかも。普段はクールな伏し目がちの瞳が細まって、思わず可愛いと思ってしまった。「私が先輩に相談したら、その彼氏の赤葦くんの先輩にも伝わったみたいで」こんなことになるとは、私も思っていなかったのだ。

「相談・・・ああ、相談」赤葦くんが意味ありげににやっと笑う。今日はなんだか、今まで見れなかった部分がたくさん見れるなあ。こんな顔もするんだなあ。・・・とか、思ってる場合じゃなかった。

「あの、ごめんなさい、返事」
「・・・返事が、ごめんなさい?」
「いやっ、ちがくて、まだ返事してないのにこんな」

中途半端な、と慌てて弁解する。まだ考え途中というか、なんというか。

「考えてくれてるんだ」
「・・・・・」
「考えてくれてないの?」
「・・・・考えてます」

そっか、とまた笑う。意外とよく笑うなあ、そう眺めていると「今日何したい?」スマホを取り出しながら聞かれた。

「えーっと、」
「急に誘われたからなにも考えてなかった」

失敗したなあ、と何やらスマホをいじり出す。手が大きくて指が長い。この手でバレーしてるんだなあ。「映画とか見る?」うーん、映画かぁ・・・。

「映画あんま見ない?」
「ううん、そうじゃなくて」

今日はたくさん話せるとこがいいかな。2時間も話せないんじゃちょっともったいない。
・・・返事どうしよう。そればかり考えていた私だったけど、今日の赤葦くんを見て思ってしまった。もうちょっと、この人のことが知りたい。

「赤葦くんの話、聞きたい」
「・・・・・・・」

ストレートにそう伝えると、少しの沈黙の後「わかった」とコーヒーを飲んだ赤葦くんの耳が赤くて、それが可愛くて、きゅんとしてしまった。





───────────






「そろそろ出ようか」


あれから3時間くらい喋っていただろうか。意外と笑うという発見に引き続き、赤葦くんは意外と饒舌かつ聞き上手で、気づいたら夕方だった。コーヒーもずいぶん前に飲み終わり、新作の試飲も2回周ってきた。それでも出ていかないなんてお店には迷惑なんだろうけど、でも話が尽きなくて。学校のこととか、部活とか、あのバンドがどうだとか。


「そうだね」と返事をして席を立つ。家どこ?と聞いて返って来たのはうちとは真逆の方向だった。




改札の前で立ち止まる。駅までの道もずっと話していた。すこし名残惜しい気分だ。



「今日はありがとう」
「ううん、・・・たくさん話せて、楽しかった」



じゃあ、また来週学校で。そう言う赤葦くんに、私はお店からずっと言いたかったことを切り出す。


「あかあし、くん」
「なに?」
「・・・・・・・・番号、教えて」

頬に熱が集中するのが分かる。今日、楽しかった、本当に。また話したいと思ってしまった。背の高い、指が長い、笑顔が可愛い赤葦くんに、私は少なからず好意を抱いていた。

「・・・・あ、うん」
「嫌だったらいいの!あでもせめてラインとか、その・・・」

了承はくれたがその前の沈黙が気になって、慌ててそう言う私に赤葦くんはまた笑って、「ごめん、びっくりしただけ」とスマホを取り出す。

「アドレスよりラインの方が連絡とりやすい?」聞くと、うーんと考えて赤葦くんは言った。



「とりあえず全部ちょうだい」
「・・・・はい」
「あ、照れた」
「照れてなんか」
「みょうじさん、可愛いね」



赤葦くんは恥ずかしいやつだ。これは今日初めての発見。「からかうのやめてください」と俯くとまた笑う。

「俺、部活忙しいけど、また遊んでくれる?」
「・・・・今度は映画がいい」

バンドとか、映画とか。そんな趣味が合うことも分かったので、照れ隠しついでにそう言うと「はは、わかった」探しとく、と言ってくれた。


「じゃあ、家ついたら連絡して」
「うん、私も、今日はありがとう」

今度こそ改札を抜ける。ホームへの階段を上る前に振り向くと、まだ赤葦くんがいたので小さく手を振る。



「(・・・・楽しかった)」


次はいつになるだろう。赤葦くんは言っていた通り部活があるだろうから、お盆とか・・・かな、お休み。楽しみだなあ、待てるかなあ。バレーしてるとこ見てみたいな。赤葦くんに惹かれていることに自分でも驚く。こんなに単純だったなんて、と。








──今度先輩にジュースおごってあげよう。

先輩の彼氏にも。そう決めて、電車に乗り込んだ。



先輩の彼氏は木葉さんな設定でしたが、名前すら出てきませんでしたね。



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