※年齢操作、未来捏造
※木葉25歳の誕生日、女子高校生と







9月終わりの午後8時はもう真っ暗で、頼りない月明かりとコンビニのやたら煌々とした明かりが眩しかった。


コンビニの外壁に背を預け、イヤホンから流れる音楽をぼんやりと聞きながらあの人を待っていた。右手に持った紙袋の紐が手のひらに心地よく食い込んでいる。

そういえばこうやってあの人を待つのは初めてのことかもしれない。週に2、3回はこの場所で話している相手の、連絡先すら私は知らなかった。



──木葉さんと知り合ったのは1年ほど前のことだった。

学校帰りにいつも来る、家から2番目に近いコンビニ。この店が出しているミルクティーが好きで、部活終わりに寄ってはそれとお菓子を買って家に帰っていた。

ちょうど仕事終わりの時間と一緒なのか、スーツ姿の男の人が設置された灰皿で煙草を吸っているのをよく見かけていた。話しかけたのか、それとも話しかけられたのか。そのきっかけはなんだったのかもよく覚えていないけれど、今と同じような気温の中、木葉と名乗った無愛想な目つきだけはなんとなく思い出せる。

その日から見かけたときにはお互い挨拶をしたり少しだけ話したりして。そうこうしている内に、ああ私この人が好きなんだな、とか思ったりもして。

でも不思議と、連絡先が知りたいだとか、この人の特別になりたいだとかは思わなかった。ただなんとなく好きで、時折言葉を交わすことがなんとなく幸せだったりして、そのなんとなくが降り積もって約1年。去年は知り得なかった彼の誕生日に、こうして木葉さんの到着を待っているんだけど。


いつもなら7時頃にここで鉢合うから、もしかしたらもう帰ってしまったのかもしれない。
それとも、誕生日を祝ってくれるような人ができたのかもしれない。

「・・・はぁ」

ため息は白くもならずに空気と混ざり合っていく。朝から暖かかったからセーターも着ていない肌に、9月30日の夜は少しだけ冷たく馴染んだ。

やっぱりいったん家に帰って上着を持ってこようか、それとももう帰ってしまおうか。
そんな考えが頭をよぎった頃、俯いていた私の視界に見慣れた革靴が現れた。


「木葉さん、遅いですよ」
「何してんのお前」

細いキツネ目は少しだけ丸く開かれていた。珍しい表情に苦笑を漏らしながら、近づいてくる木葉さんにこんばんはとだけ返す。

「もう8時じゃん、部活遅かったの」
「・・・木葉さんも、今日遅いですね」
「残業」

そっけなく吐き捨てるように言いながら、木葉さんは慣れた手つきで煙草を1本取り出した。強い風に少々苦戦しながら火を点けるいつも仕草に、少しだけ胸をなでおろす。

「こんな日まで残業なんて大変ですね」

親指で紐を擦りながら、灰皿の反対側、いつもの定位置で煙草を吸う木葉さんに言う。人差し指でトントンと灰を落としながら、木葉さんは一瞬だけ私に目をやった。

「こんな日ってなんだよ」
「え」

この人まさか、忘れてる?
祝ってくれる人とかいないの?いないから残業してたの?せめて職場でなんかこう・・・一言貰ったりとか、無いの?現代社会ってそんなに冷たいの?

「なんだよ」
「・・・祝ってくれる人がいないと誕生日って忘れちゃうんですね、よく分かりました」

木葉さん元から目つき悪いんだからあんま睨まないでくださいよ、と笑いながら手に持っていた紙袋を差し出した。

「これ、あげます」

私よりもだいぶ高い位置にある木葉さんの顔は、見上げなければ視界にすら入らない。ネクタイの結び目あたりを見ながら、誕生日おめでとうございますと一言だけ添えた。

「え、なに、まさかこれ渡すために待ってたの」
「・・・いいから早く受け取ってください」
「まじで?え、ふつーに嬉しい」

私の右手から、木葉さんの左手に。吸殻を灰皿に落としながら、ありがとな、と破顔したのが少しだけ見えて。とっさに顔を正面に戻して、渡すとき一瞬だけ触れた指先を爪で擦った。

「部活も普通の時間に終わってたんだろ。寒かった?」
「大丈夫です」
「嘘つけ、指冷たかった」

ちょっと待ってな、と木葉さんはコンビニに入っていった。本当に、瞬間的にだけ体温を交換しただけなのに。その一瞬でも私の体温が木葉さんに伝わったのだと思ったら、なんだか胸がくすぐったくなってきた。

──冷えてるっつってんのに、外で待たせる奴があるか。爪でいじっていた指先に、左手を添えてみる。ガラスの向こう、お店の中に目を移すと木葉さんはもうレジから入口に歩いてきていた。

見ていたことがバレないように、そっと視線を足先に落とす。戻ってきた木葉さんは私の前で立ち止まり、「ん」まだ湯気の上がる白くて丸いそれを半分にして手渡してきた。

「肉まん」
「・・・ありがとうございます」

いつもと違う、灰皿を挟まない距離で。木葉さんと半分こにした肉まんをちまちまと食べながら、隣のやたらと薄く出来ている体を視界に入れないようにして口を開く。

「高校生のお小遣いで買える物だから期待しないでくださいね」
「んー、ありがとな」

開けんの楽しみ、と。本当に嬉しそうに言うから、なんだかこっちが恥ずかしくなってきてしまった。いやそんな、たいした物じゃないんで。肉まんを唇ではみながらぼそぼそと、なんでか分からない言い訳が口からこぼれていく。

「・・・なにお前、そんな顔もできんじゃん」
「なんですかそんな顔って」
「耳赤い」

告ってきたときですら真顔だったしなあと、なつかしげな口ぶりで木葉さんは言う。私の好きなんてあっさりかわしたくせに、勝手に思い出話みたいにしないでくださいとは言えず、右手で耳たぶを引っ張りながら足元の小石を蹴飛ばした。

「赤くないです」
「んー? よく見たらほっぺも赤いじゃん」
「うるさいです肉まん半分だなんてケチですか馬鹿」

いつも私がおちょくってばかりだったから、こんな風にからかわれると対処のしようがなくなるのはこの人が普段情けないからだ。
覗き込んでくる木葉さんに思いっきり顔を逸らした。言い聞かせるように、顔の熱さを押し殺すように。もう小さくなっていた肉まんを一口で押し込む。

「もう遅いし送ってくから」
「いいですよ、チャリだし」
「いいから。送らして」

その前に、1本だけいい?
確認のくせに、隣からはもうライターから火が立ち上がる音がした。ぶわりと広がっていく煙と、私のため息とは違う、吐き出されていく白が夜に吸い込まれていく。

そうして木葉さんは定位置に戻っていった。灰皿をはさんだ、煙草という白くて細い紙と葉が繋ぐ一定の距離。木葉さんの左手にぶら下がる紙袋を眺めながら、待っててよかったかな、と少しだけ思えた。




14/9/30

木葉さん誕生日おめでとう!ツイッターでぼそぼそ言ってる木葉秋紀(24)と女子高生(17)ネタです。




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