定休日である月曜日に一人学校に残り、この間の烏野との試合を分析する小鳥遊を見つけて、終わるのを見届けてから学校近くのファミレスに誘った。疲れた時には甘いもんでしょ、と最もらしい理由をつけて。
パフェを頬張って時折笑顔を零す小鳥遊を眺めながら誘って良かったなとコーヒーを啜りながら思った。


「松川は何してたの?」
「ん?」
「今日。月曜は自主練かすぐ帰るかじゃん」


さくらんぼを口に放り込んで首を傾げる小鳥遊にあー、と漏らす。別に、悪いことをしていたわけじゃないけど、なんとなく言いたくないというか言いづらいというか。しかし嘘をつくのはなんとなく気が引けたので、正直に言おうと口を開いた。


「告られて」


言った後少しの動揺も悟られたくなくて、すぐにカップに口をつけた。独特の香りと苦味を舌で転がした。まるで俺の心中のようなそれに気づかれぬよう苦笑した。
小鳥遊は顔色一つ変えず、淡々と聞き返してきた。


「で、付き合うの」


社交辞令のような質問に口角を持ち上げた。少しくらい気にしろよ、という本心を忍ばせて。


「断ったよ」
「へえ」
「興味なさげ」
「んー?」


ーーなあ、それ。もしお前の幼馴染が告白されたことを聞いても、同じように淡々と返すの?
特に表情に何の変化ももたらさない小鳥遊にそんな言葉が喉元ま出かかった。ぐっと堪えるように笑みを貼り付ける俺に、じゃあなんで断ったのと同じように笑みを作って尋ねる小鳥遊。

少し悪戯っぽい表情に、焦燥感と独占欲が渦巻くのを感じた。今までは気づかれないようにしていたけれど、もうそれは止めようと思った。あの烏野の幼馴染を見て形振り構っていられないと思った。


「気になる?」
「気にしてほしいのかと思って」
「好きな子いるから」


こう言ったら気にしてくれるかな、なんて小さいこともほんの少し考えたけど。こんなことで意識し出すようなヤツじゃないっていうのはわかってる。それでも駆け引きじみたことをしたのは、僅かな期待にも賭けたいという俺の意地で。


「だれ、…とか聞いても教えてくんないか」
「まーね」
「…うまくいくと、いいね?」
「なんで疑問系なの」
「だって応援のしようがないじゃん」


眉尻を少し下げて、ちいさく笑ってグラスに口をつける小鳥遊に黙り込む。うまくいくと、いいね。その言葉をゆっくりと飲み込む。全く動揺のないそれに、わかっていたけれどちくりと胸のあたりが痛んだ。

(眼中にないってことか)

俺は何も言えずに、コーヒーに口を付けた。やりきれないような想いを飲み下すように、苦い液体を流し込む。

ーー残った後味が、余計に胸を締め付けた。

ごちそうさまでした、と手を合わせた小鳥遊に視線を戻すと、満足そうな笑顔を浮かべていた。


「あー幸せだった」
「それはよかった」
「ん、付き合ってくれてありがと」
「いーえ、…あ、小鳥遊、」


口の端についたチョコに気づいて、手を伸ばす。指でぐいっとこすると、いたいと呻いた。僅かに触れた頬が柔らかくて、そのまま頬に手を沿わせてしまいたくなった。そんな下心を隠して、呆れた表情をつくる。


「やめてよ恥ずかしい」
「口にチョコつけてる方が恥ずかしい」
「はい」


口を尖らせるが素直に返事する小鳥遊に笑った。そういうとこかわいいんだよな。
その後すぐに席を立って、レジで財布を出す小鳥遊に「いつもおつかれってことで」とかっこつけてちいさく笑った。

ありがとう、と笑う小鳥遊の指を絡めとる代わりに、頭を一度撫でて肩を並べて駅まで歩いた。

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