小鳥遊がその幼馴染と今まで過ごしてきた時間と、俺が小鳥遊と学校や部活で過ごしてきた時間、どちらの方が長いのだろう。

そんな馬鹿みたいなことを考えて、すぐにやめた。考えたところで答えが出るわけでもないし、どちらの方が長かったからと言ってそれは何の理由にも言い訳にもならないのだから。それにまだ、その幼馴染が小鳥遊のことを好きなんだと決まったわけではない。決まったわけでは、ないのだ。



「幼馴染ってどれ」

練習試合当日、烏野が体育館に入ってきた時に一番にその幼馴染とやらを探した。優しそうなやつ。それしか手掛かりがない中で、なんとなくそれっぽいのを何人か見つけた。その上で更に一人に目星をつけ、確認と言う名の答え合わせをする。

「あれ、あの、あー今ほら手振ってくれてる人」

小鳥遊が手を振り返す。その先に居たやつは俺が適当に目星をつけていた奴で、こういう勘は別に備わってなくても良かったかもなぁと思った。確かに優しそうだし本当に優しいやつなんだろうけど、芯はしっかりしていそうだ。そういうやつって大体、負けず嫌い。

「ふうん」
「試合出られないの残念だな…」
「俺もちょっと見てみたかったわ」
「え、なんで?」

不思議そうに俺を見上げる小鳥遊に答えを教えてやらないまま、そろそろ行くぞと小鳥遊の小さな背中をぽんと叩いた。

「、うん」

俺は小鳥遊の彼氏でもなんでもないから、牽制とかそんなことは出来ない。だからせめてと、その幼馴染に今こいつはこっちで仲間たちとわいわいやってますよと見せつけてやる。小鳥遊にこうやって簡単に触れることのできるやつがいるんですよ、と、伝えてやる。…それしか出来ない。

…だから、その幼馴染が小鳥遊とどんな関係なのかとか、幼馴染が小鳥遊をどう思ってるのかとかはわからねぇっつーのに。

自嘲気味に笑って少し前を歩く小鳥遊を見つめた。
小さな背中。本当に小さな背中だ。その小さな背中を後ろから丸ごと、もっと言えばこいつの心も体も全てすっぽり包み込んでやることが出来るのが俺だったらいいのに、なんて、柄にもないようなことを思った。一瞬だけ後ろを振り返ってみると、幼馴染の、なんだっけ名前。スガワラとか言ってたっけ。スガワラくんが、じっとこっちを見つめていた。俺とは目が合わなかったけれど、視線の先は確実に小鳥遊だった、と思う。
ああ俺それ知ってる。そのちょっと熱っぽい視線さ。よく知ってる。だって俺が小鳥遊に向けてるやつと一緒だから。こいつもやっぱり、小鳥遊のこと大事に想ってるやつなんだ。

「小鳥遊」
「ん、なに?」
「…どっちに勝って欲しいと思ってる?」

聞いてはいけない質問だったかもしれないと、分かっていながら聞いた。きっと小鳥遊の意識しているところのスレスレを行ったと。烏野か、青城か、じゃねぇよ。本当に聞きたいのは。スガワラくんか、俺か、の話。
小鳥遊は思った通り、ちょっと困ったような顔をした後に笑った。

「…決まってんじゃん」

覚えてないの?私が張り切ってたこと。
そう言って今度はからからと笑う小鳥遊に、求めていた答えとは違うけどな、と心の中で呟いてから頭を掻いた。

「覚えてる」
「よし」

今度は小鳥遊に背中をばしんと叩かれた。「いっ、て」「弱気になってんじゃないでしょうねえ、そんなでかい図体しといて」あー、うん大丈夫。いま結構貰ったわ。パワーみたいなやつ。

「なってねぇよ」
「ならよし。いっぱいブロック決めてくださいよ」
「はいはい」

まだいい。まだいいと思える。この枠の中から一歩外に出た小鳥遊のことは、悔しいけれどわからない。でも学校での、部活での小鳥遊は、俺の方がよく知っているから。


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