小鳥遊を意識するようになったのはいつからか、もう覚えていない。一年のときから同じ部活でマネージャーとして気付けば傍にいたし、頼りになるのに時々抜けてて、見ていて飽きないなと思ったのが始まりだ。

無意識に目で追うようになって、手を貸せるときは助けたりすると、松川ありがと、と照れ臭そうに笑う顔に俺の頬も緩んで、その顔をもっと見たいと思ったとき、好きなんだなと自覚した。

今日も一人で横断幕の洗濯に奮闘していて、幕の端を踏んでつんのめる小鳥遊を寸でのところで後ろから抱き寄せて助けられた。

「…っと」
「わっ…!…松川?ご、ごめん!」
「俺はいいから。お前は?大丈夫か?」

小鳥遊の華奢な身体は片手でも支えられて、ちゃんと食ってんのかと思うくらいだ。「大丈夫!ほんとごめん…!」と謝る小鳥遊のその細く柔らかい肌に、思わず身体が固まってしまう。いつまでもこの近距離は良くないと頭では分かっているに、小鳥遊の体温が心地良くてなかなか手を離せなかった。

「…松川?もうほんとに大丈夫だよ?」
「…あ、ああ」

言われてやっと身体を離す。松川ありがと、と素直にお礼を言われて、少しでも邪な気持ちを持って接している俺は、頷きながらも目線を逸らしてしまった。

「あーあ、踏んづけちゃった。せっかく洗ったのに…」
「はたけば落ちるだろ?大丈夫だって」
「そう?…まあ松川が言うならいっか」

そして汚れを落としてまた一人で横断幕を畳もうとするから、反対側を持って手伝ってやる。

「えっいいよ!松川いま休憩でしょ?」
「いいから。こういうのは二人でやった方が早いんだから」

ごめんね、と謝る小鳥遊に、気にすんな、と声を掛け、二人で横断幕を畳んだ。そのあと休む間もなく小鳥遊は他の洗濯を始めた。よく働くなと、せっせと動く俺よりふたまわりは小さい小鳥遊をドリンクボトルを傾けながら見ていることにした。

心なしか小鳥遊の表情が生き生きとしている。仕事してるときは大抵こんな顔だが、今日は特に。

「なんか気合い入ってるな」
「えっ?そう?」
「うん、いつも以上に張り切ってる気がする」
「分かっちゃうもんかな?」
「分かるって?」
「明日練習試合でしょ?だから」
「練習試合なんてしょっちゅうやってるのに?」
「烏野だからね相手」

烏野、と言われて首を傾げる。烏野だから、と言われてもあまりピンと来ない。今まで練習試合をした記憶のない高校だったからだ。

「なんで烏野だから、なんだ?」
「幼なじみがいるの」
「…幼なじみ?」

うん、と洗濯をしながら頷く小鳥遊にそれは初耳だと思いつつ、いや小鳥遊とは高校からだし、幼なじみの一人や二人いてもおかしくないと思い直す。ただ練習試合の対戦校ということはつまり、男子バレー部。その幼なじみとやらは十中八九、男なわけで、その辺が面白くないと言えば面白くない。

「下手なとこ見せらんないからさ、張り切るしかないでしょ」

そう言ってカラリと笑う小鳥遊に、名も知らぬ幼なじみに嫉妬する自分の小ささに思わず自嘲を漏らす。気になるなら素直に聞けばいいかと口を開いた。

「どんなやつ?その幼なじみって」
「え?どんな?えーとね、…どんなって言われると一言じゃ難しいんだけど…、優しい、かな?」

優しい、ね。そんな男、ごまんといるけど、小鳥遊の「優しい」に当てはまるその幼なじみが羨ましくもあり、俺だってその部類に入るのではないか、と期待したりもする。

「あとは?」
「えっ、あと?うーんと、…よく笑うでしょ、周りのことよく見てるでしょ、でもちょっと頑固なとこもあって…、あ、あとポジションはセッターだよ」
「セッター、ね」

そこで小鳥遊が黙り込む。急にどうしたんだと思って声を掛けたけど、なんでもない、と笑って誤魔化された。

「そいつ、名前は?」
「菅原、菅原孝支」

数日前に監督やコーチの話で聞いていたはずなのに、その時はすっかり失念していた。今回の烏野との練習試合、 一年の影山ってヤツを正セッターとして出すことを俺ら青城が条件に上げていたことを。

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