「俺は朔が好き」

まさか肉じゃが食ってるときに告白するとはな、と部屋で制服を脱ぎながら思っていた。その肉じゃがの味も、ご飯もお味噌汁もなにもかも、なんの味もしなかったと気まずかったさっきの晩飯を思い出していた。

もう朔はここにいない。食い終わったら、課題があるからと言って家に帰ってしまった。きっと気まずいとか思われたんだろうな、と考えて胸が痛んだ。

もっとタイミングとか、シチュエーションとかあっただろ、って今なら思う。だけど朔の口から「松川」って名前が出て、しかもそいつと放課後にファミレスに行ったと聞かされて、本当にするりと俺の口から紡ぎ出されたのがその言葉だった。

あの松川ってやつが、告白されて、けど好きな子がいるから振ったとわざわざ朔に言ったのはたぶん、暗に自分のことを意識して欲しいと伝えたかったんだと思う。少なくとも俺にはそう思えた。

俺だって朔に意識してもらいたいし、出来るなら好きになってほしいってずっと思っているのに、今の今まで言わなかった。この「幼馴染み」ってポジションに甘えていた。心のどこかで朔の一番傍いるのは自分だって驕っていたんだと思う。高校に入ってからは、放課後に朔とどこかに出掛けたこともないくせに。お互いの家では会うけど、それだけだ。朔にとって俺は本当にただの幼馴染みで、それ以上でもそれ以下でもないんだなって、告白したときの朔の顔を見て思い知らされた。

着替え終わって深い溜め息を吐く。響くはずはないのに、一人きりのこの部屋に、寂しさとして漂ってしまった気がした。

俺か松川か、朔はどっちを選ぶんだろう。いや、もしかしたらどちらも選ばないかもしれない。いつか朔に好きな人が出来たら、…寂しい。なぁ。うん。寂しい。それしか思えなかった。

ただ、あんな突然の告白だったけど、不思議と後悔はなかった。言ってしまったことを取り消すなんて出来ないし。なのになんでこんなに心が晴れないのか。朔が笑ってくれなかったからだ。うそでしょう、って戸惑った顔が頭から離れない。あんな顔させるつもりなかった。困らせるつもりもなかったのに、結果そうなってしまって、だから急いで話を終わらせたんだ。

目を閉じて朔の強気な笑顔やふわりと笑う顔を思い出す。落ち込んで泣いたって、最後には笑っていて欲しいといつも思っているのに。

「……好きだよ」

このたった一言で、全てが変わっていく。もうただの幼馴染みじゃいられないのは確かだろう。この部屋に朔がふらりと訪れることもなくなるかもしれない。そう思うと胸が締め付けられた。だけど自分で選んだんだ、ただの幼馴染みでいたくないって。

せめて俺からは朔を避けたり、これ以上困らせたりしないようにしなきゃな。あいつ、一人で抱え込むとこあるもんな。

今から会いに行ったら、困らせるかな?でも、今行かなかったら、朔はますます会いづらくなるんじゃないか。

気まずさも勿論あったけど、それよりこのまま朔が離れていく方が寂しかった。告白の返事はいつか欲しいけど、だけどそれが俺の望んでないものだったとしても、俺から離れてくってことはない。いつだって朔の傍にいるし、俺は朔の味方だから。そうだ、それもちゃんと伝えないとな、と静かすぎる部屋のドアを開け、寂しさから抜け出すように朔の家へ向かった。


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