同じクラスの黒尾鉄朗と付き合い始めてから1ヶ月程経っただろうか。ヘンな髪型をしていて、いつも怪しい笑顔でニヤリと笑い、強豪であるバレー部をまとめ上げている主将である黒尾。

そんな黒尾とは元々仲の良い友達だった。2年の頃から同じクラスだったのだが、2年の秋頃の席替えで隣の席になってから話すようになり意気投合。くだらない冗談を言い合うような仲になって、たまたま先月模試会場から一緒に帰ることになって「好きなんだけど」と言われたのだった。
その時私は「え?なんて?」と聞き返してしまった。アホ面を下げた、私に黒尾はいつものポーカーフェイスを崩し、ばつが悪そうに顔をしかめて「好きだっつってんだよ」と少しぶっきらぼうに言葉を放った。

黒尾が私のことをそんな風に想っているとは思わなかったのだが、その時彼が放った飾り気のない好きだという言葉がストンと胸に落ちてきた。気づいたら頷いていた。なんともあっさりとした始まり方だった。


「と、言うわけなんだけど」
「いやあっさりしてんのはみょうじだけだろ」


同じクラスメイトの夜久に報告すると、夜久はげんなりとしながらちゅう、と紙パックのストローを吸った。なんか夜久ストロー似合うな。ちなみに夜久とは前後の席で今は昼休みだ。黒尾は部長会でいない。
夜久はちらりと黒尾の席を一瞥してハア、と溜息をついた。


「黒尾はお前のこと去年から好きだったぞ」


哀れむような視線を寄越す夜久に目を開いた。去年からから?え、めっちゃ前。そんな素振りあったかな、と頭を捻らせていると夜久は「まあ、」と口を開いた。


「黒尾もあからさまではなかったしな」
「うん、全然わからなかったもん」
「でもお前鈍いな」


冷静にそんな風に言われてなんだか恥ずかしくなってしまったので、夜久のつむじを押す。夜久は「おい!」と声を荒げた。


「なにすんだよ!」
「なんとなく」
「よーし頭出せ」


目を据わらせて指をちょいちょいとする夜久にあーまずい地雷だったかと思った。そういえばつむじを押すと身長縮むんだっけな。へらりと笑うとガシリと頭を掴まれた。


「おいコラ人様のつむじ押しといてタダで済むと思うなよ」
「やっくん痛い痛い痛い」


離して、と言うが許してもらえず。こめかみのツボを刺激する夜久の手首を掴むと、上から「おい」と低い声が降ってきた。それと同時に夜久の力が緩む。


「夜久、」
「あー悪い」


謝罪の言葉と一緒に離れていった夜久の手。顔を上げると少し不貞腐れたような表情を浮かべた黒尾がいた。ヒラヒラと手を振るが目を細めるだけだった。なんだなんだ。
首を傾げると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。というか黒尾割と強めにやるから髪がボサボサになっていく。


「ちょっとやめてよ」
「うるせえ」
「はあ?」
「余裕ない男は嫌われるぞ黒尾ー」


からかうような夜久の声色に、黒尾の手がぴたりと止まった。そしてボサボサになった髪を梳くと自身の席に戻り、机に突っ伏してしまった。なんだありゃ、と寝癖頭を凝視していると夜久の笑い声が聞こえてきた。


「ほら、あっさりなんかしてねえ」
「やっくんあれ何なのかわかるの?」
「あーまあな」


つーかお前わかんないのか、と呆れた表情を見せる夜久にこくんと頷いた。ちゅう、とパックジュースを吸いきって潰しながら、夜久は私と黒尾を順に見て表情を緩めた。


「あれは、やきもちってやつだろ」


ニヤリと笑う夜久に、また目を見開いた。あの黒尾が、やきもち。信じられないなと思ったけど、先程の意味不明な行動と未だ突っ伏している黒尾を見て、なるほどと頷いた。
そっかあ。やきもちかあ。ゆるゆると持ち上がる口角に気づいた夜久が、デコピンをしてきた。別に痛くはなかったけど。


「顔緩んでんぞ」
「うん、知ってる」


はいはいリア充、とあしらうように言ってくるりと前を向いた夜久。その背にありがとう、と声をかけた。なんだかんだ言いつつ私の相談に乗ってくれるから夜久は優しいな。きっと黒尾の話も聞いてるんだろうし。

ちらり、と黒尾の席をもう一度見ると、黒尾は顔を上げてこちらを見ていた。その目はまだちょっと拗ねているようだったから、私は思わず笑ってしまった。

今日帰る時手繋いでやろ、と心に決めてなんだかんだ言いながら私もちゃんと黒尾のこと好きだなあと思ったのだった。


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