「けーいじーくんっ」
お待たせ〜、とご機嫌に俺の腕に絡みついてくる。普段もこれだけ素直で甘えてきてもらえたら可愛いんだけれど。
「今日女子会なの」と楽しそうな笑顔を浮かべて彼女は出かけていった。金曜日の夕方。彼女の家に泊まりにきた俺はじゃあ駅まで迎えに行きますから連絡してくださいねと彼女を見送った。
けーじくんお迎えきて。そう言った彼女の声はいつもより少し高くて、ああ酔っ払っているからはやく行こうと途中の自販機で水を買って駅まで急いだ。改札の前の柱にもたれていたなまえさんは俺を見るとへらへら笑ってぎゅ、と抱きついてきた。ああこれは相当酔っ払っている。ふだん外で腕を組むのも恥ずかしがる彼女がこうなるのは久しぶりで、相当盛り上がったのかずっと笑顔を絶やさなかった。
「ほら、ちゃんと歩いて」
「んー・・・」
て、つないで。ずいと差し出された彼女の指に自分のそれを重ねて絡ませるとなまえさんは満足げに笑う。水を渡してもいらないと言われ、まあ家に帰ってから飲ませようとにこにこ顔のなまえさんを連れて家路についた。
道中でもやはり彼女は上機嫌で、ヒールの高いサンダルを邪魔そうに歩いていた。けーじくん、今日は満月だねえ。そう言うが残念ながら三日月で、でも言い返すと面倒なのでそうですねと適当な相槌を返した。
途中の公園でブランコに乗りたいと喚くなまえさんを引っ張り、アパートに帰る。なんでだろう、この人は酔うと大抵ブランコに乗りたがるのだ。
「なまえさん、靴脱いで」
「ん、・・・・脱げない」
「・・・よっぱらい」
ストラップも外さずにぐいぐいとサンダルを引っ張り文句を言う。当たり前だろうとため息をつき、彼女の足元にうずくまってストラップを外してやる。けいじくんしんし〜、なんて言う彼女の手を引っ張ってベッドに放り投げた。
「んー・・・」
「水飲んでください」
ぐい、とペットボトルを彼女の口元に押し付ける。いらない。そう言って飲みたがらないなまえさんにまた嘆息し、俺はペットボトルの蓋を開け水を口に含んだ。
「ん、」
片手で両手をベッドに縫い付け、もう片手でなまえさんの頬を固定し口付ける。彼女の口内に水を押し流すと苦しそうな声が漏れる。その声に満足した俺はそのまま舌を突き出して彼女のそれに絡ませた。ざらりとした感触が伝わる。・・・普段、シラフのときこの人はあまり好きじゃないとディープキスをさせてくれないが、酔っ払ったときだけは積極的になってくれるのだ。うっすらと目を開けると、ぎゅ、とまぶたを下ろして必死に俺にこたえる彼女の姿が見える。隙間から漏れる声を堪能して唇を解放すると、なまえさんは恨めしげに俺を睨んだ。
「ほら、自分で水飲んでください」
「・・・・ん」
起き上がって、今度は素直に手を差し出すなまえさんにペットボトルを渡す。ごきゅ。と飲み込むたびに鳴る喉がエロくて、飲み終わったと同時に水を取り上げてその首筋に噛み付く。苦しげに眉をしかめて声をあげるなまえさんにまたぞくりときて、もう1度ベッドに押し倒した。
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京治くんは今日、大学生活はじめての飲み会があるらしい。いわゆる新入生歓迎会というやつだ。楽しんでおいでとメールして、私は家でもくもくとレポートを書いていた。22時、電話が唐突に鳴ったのはその時だった。
「・・・京治くん?」
「なまえさん、今日泊まってもいい?」
いつもよりも少しだけ舌っ足らずな声に驚く。以前2人で飲んだときは(・・・未成年にお酒飲ませてごめんなさい)、結構飲ませたのにも関わらずなかなかしっかりしていたから。
「いいよ、今どこ?」
「あと5分くらいでなまえさんち」
なんか買ってく?の質問に大丈夫と答え、部屋の中を見回す。・・・昼間片付けておいてよかった。しかし唐突に泊まりに行くと言うのはなかなかに珍しい。初めてじゃなかろうか。別に全然構わないし、嬉しくもあるのだけれど。
「なまえさん、ただいま」
「・・・おかえり」
チャイムが鳴って急いで出ると、そこには顔を真っ赤にした京治くんが立っていた。うわあ、すっかり出来上がってる。早く上がって、と促した途端ぐったりと私にもたれかかってきて、その180cmを越える彼の体を支えるのに私は精一杯で、彼の指が私のブラジャーのホックを外そうとしているのに逆らえなかった。
「っ・・・ちょっと、京治くん」
「んー・・・?」
「ちゃんとして、起きて靴脱いで」
あとホック外さないで。ぺちんと彼のおでこを叩いて肩をぐいと押す。うーん、と呻きながら靴をぽいぽいと脱ぎすて、私を置いてさっさと布団に飛び込んでいくのを見送る。
冷蔵庫から水を取り出し、京治くん用のグラスに注ぐ。酔っている京治くんを初めて見る。ちょっと面白い。はい、とグラスを渡すとぐいと飲み干した。
「なまえさん、こっち」
寝っ転がって両手を広げる。素直にその腕に体を預けると。片足で私の腰をがっちりと固定しむぎゅ、と抱きしめてくる。
重い、と足をどかすと不機嫌そうに私の頬をつまむ。いひゃい、抵抗するとさらに眉間にシワをよせてこの部屋暑いと文句を言いだした。・・・まだ5月なんですけども。
「酔っ払ってるから体熱いんだよ、シャワー浴びといで」
「ん、なにそれ・・・なまえさんえっちしたいの?」
「あかあしくんはなにをいっているの?」
へんたい、と頬をゆるゆるにして笑う京治くん。・・・さっきからいちいち衝撃的すぎて驚くのも追いつかない。普段クールな彼からは想像もつかない姿に、飲み会でもこんな感じだったのかなあとふと不安が募った。
京治くんが進学したのは建築学科だ。理系学科ではあるけれど比較的女の子が多く、今日はその先輩たちが企画した飲み会だったと聞いている。・・・同い年の女の子にいちゃいちゃと抱きつく京治くんを想像してぞっとする。
自分の妄想にいらついただけだが、まあ原因はこの酔っ払いの男なのでとりあえずでこぴんをしておいた。少し額にシワを寄せた京治くんは不満そうに私の手を振り払ってぷいと向こうを向いてしまう。
「けーじくん、おふろー」
「んん・・・」
眠そうにしている彼を見て、もう今日はこのまま寝かせようと決める。いつも噛み付いてくるお礼だとばかりにひとつ肩に歯をたてると「ん、」と可愛らしい声が京治くんの口から漏れた。
「(・・・これは)」
いつも痛がらせるお返しだと、もう1度同じところに噛み付く。いた、と短く言う彼に気を良くして、さあ電気消すかと電球のヒモに手を伸ばすとその直前で京治くんが急に起き上がった。
「!?・・・ど、どうしたの」
「シャワー・・・」
「ああ、行っておいで」
なまえさんも一緒にいこ、と腰に巻き付く腕に私はもう入ったからと言い、パンツ干したの出すからはやく行っちゃってと彼を促す。
「なまえさん」ぐい、といつもより強い力で肩を壁に押さえつけられる。こら、おとなりさんに迷惑でしょうと怒りかけたところで京治くんの唇が私を襲った。
「ちょ、ちょっと」
「なまえさん」
名前を呼ばれふ、と見上げるとどアップの京治くんが私を覗いている。赤みはだいぶ引いていて、ああよかったなあと思っているとその顔にいつものニヤリとした笑みが張り付いた。・・・嫌な予感がする。
「なまえさん、」
「・・・・うん?」
その予感を必死に脳の隅へ追いやる。だが無情にも、たっちゃった。彼はお構いなしに囁いた。何が、とも聞けない私は、しばらくお酒飲ませないようにしよう。そう決めて流されるままに京治くんの下に組み敷かれた。
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