「明日泊まりいってもいいですか」


ぽろろん、とスマホが鳴る。京治くんからのメッセージを読んで、思わず頬がゆるんだ。お泊り久しぶりだなぁ、嬉しい。もちろん、と返事をして、たまった洗濯物を片付けてしまおうと私はベッドから立ち上がった。











「んー・・・・」

意外と京治くんは寝起きが悪い。今日は1日休みらしいので昨日からうちに泊まりにきている。土曜の午前11時、なかなか起きない彼の横で私はスマホをいじっていた。友達や研究室の仲間とメッセージを交わし、アプリゲームをし、教授からのメールも確認して。起こしては悪いとベッドの中でおとなしくしている私を誰か褒めてほしい。お腹がすいた、朝ごはんが食べたい。


「京治くーん」
「・・・・・・」
「ご飯はー?」


試しに声をかけるがやっぱり起きない。もういいや、そう思ってベッドから抜け出そうとすると腕を掴まれ引き戻された。

「わ」
「・・・どこいくんスか」
「お水くらい飲ませて」

おはよう、京治くん。そう言って彼の腕の中で体を反転させる。まだ眠そうな目で「おはようございます」と言うが今にも寝てしまいそうだ。もうちょっと寝てていいよと言って離れようとするがなかなか腕を緩めてくれない。

「喉渇いた」
「ん、俺も」
「じゃあ起きて」
「・・・・・」

起きてと言った途端目をつむる。大変可愛らしいが甘えさせてばかりはいられないのでこら、と軽く顎を掴むとしぶしぶながらも手を離してくれた。

冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。2つのマグカップに注いで部屋に戻ると京治くんはやっと目を覚ましたようで、ベッドに座って自分のスマホをいじっていた。はい、とカップを差し出すと無言で一気に飲み干す。


「はー・・・・」
「喉渇いてたんじゃん。もっと早く言いなよ」
「・・・うるさいですよ」


一度起きてしまえば二度寝の可能性はあまりない。今日何しよっか、と聞くとナニしますか、なんてふざけた返事。「あ、映画見たいのあるの」おふざけ(彼はたぶん本気だが)を流すのもだいぶ慣れてきた。


「なまえさん冷たい」
「お出かけ連れてってくれないの?」
「・・・・しょうがないですね」


連れてってほしいならこっち来てください。自分の隣のスペースをぽんぽんと叩くので、私は素直に京治くんの隣に腰掛けた。持っていたカップを取り上げられ、そのままベッドに押し倒される。


「ぎゃ」
「もうちょっと色気ある声出せないんですか」
「うるさいなあ」


のしかかる体重に抵抗してみるけど当たり前に無意味で、諦めて体の力を抜く。首筋にがぶりと甘く噛み付いてくる京治くんはなんだかペットみたいだ。「ふふ」「なに笑ってんすか」「可愛いね」「・・・・」可愛い、そう言われるのが嫌だといつか言っていた。案の定京治くんは黙ってしまって、ひとつ強めに噛み付いてくる。


「いた、いたい、ばか」
「可愛いとか言うからです」


噛んだのと同じところを今度はべろりと舐める。いや、と短く言えば「いやですか」繰り返すくせにやめてはくれない。


「なまえさんのほうが可愛い」
「は、はずかしいこと言わないで」
「恥ずかしくないでしょ」


本当のことですから。その一言で私の頬は火照ってしまう。顔が真っ赤だと指摘される前に枕にうずめようとしたが、顎をがっちり固定されてそれも叶わない。照れてる、と薄く笑うこの人は本当に私の5つも下なんだろうか。色気というか、普通にエロい。びっくりする。


「・・・えろい顔しないで」
「俺はしてませんよ」


なまえさんこそ誘うような顔しないでください。そう言って離れていってしまう。・・・いってしまう、ってなんだ。

私も慌てて起き上がる。「で、何見たいんですか」この切り替えの早さはなんだろうか。恥ずかしい気持ちになっていた私が恥ずかしい。・・・日本語もなんだかおかしくなってきた。


「・・・白ゆき姫殺人事件」
「それもうとっくに公開終わってますよ」
「えっ!」


どうせ今頃原作読んで見たくなったんでしょう。・・・く、図星すぎて何も言い返せない。少し悔しくなって、さっきの仕返しとばかりに京治くんの首筋に噛み付く。が、彼は何も気にしていないがごとく「後でツタヤ行きましょうか」と言った。



「・・・はい」



高校生のときはあんなに可愛かったのに。そんなことを考えながら「お腹すいたね、ご飯作るよ」再びベッドから抜け出す。手伝いますの声にいいよ座ってて、と台所へ向かう。


「フレンチトーストでいい?」部屋に向かって聞くと、「なまえさんのフレンチトースト好きです」・・・・さっきむっとされたばかりだけど、いちいち返事が可愛いなぁとつい思ってしまう。


「(こんなこと考えてたらまた噛み付かれる・・・)」
「なまえさん」
「わあっ」


卵と牛乳を混ぜていると急に後ろから抱きすくめられた。け、けいじくん、こぼしちゃうよ。困る私に「お構いなく」そう言って耳に舌を這わせる。お構いなくと言われましても。



「寝ぼけてあんまり気にしてなかったけど、さっき噛み付いてきたのって挑発のつもり?」




ちがう!ていうか寝ぼけてたの!やめて離して!首を回して文句を垂れると、「ほんとにやめていいの?」キスが落ちてくる。




・・・何度目のキスの後だろうか。京治くんは私からぱっと手を離し、卵のボールにラップをかけてささっと冷蔵庫にしまう。「あ、ちょっとなにするの」「杏奈さん」


「ベッド行きます?」
「行かな」
「それともここでしたいんですか?」

楽しそうにニヤニヤと笑う京治くんに、私はどうも逆らえない。あんなにあんなに可愛かった高校2年生の彼とは影も形も似つかないのに。


「・・・・連れてって」
「はい」




それでも、あの頃も今も、彼は私の最愛の人。

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