29/エメラルドグリーン/道/その先の
ねえ一くん、綺麗に積もったね。3月1日の宮城は相変わらずの雪景色で、鼻の頭を赤くして2人で笑った。この道がね、私大好きだったの。2人で帰るのもこれで最後だね。「そうだな、」隣から聞こえるのは短い低い声。「向こう行っても元気でな」そう言う一くんの顔を私は見れなかった。不器用なキスの味を私はきっと一生忘れない。ねえ、私ね、夏になると綺麗な色の葉をつけるこの並木道が本当に大好きだった。ここを2人で歩くのが、本当に、本当に。

25/ストロベリー/爪/きみはかわいい
「研磨起きて!」薄いまどろみの中から目を開くと、そこには満足そうな幼馴染の顔があった。なに、と気だるさを隠さず聞く。この表情は機嫌がすこぶるいいときに見せてくれるけど、多分おれにとってあまり都合のよくない悪戯を達成したときのそれだということは分かっていた。「つめ」促された視線の先の爪は赤く染まっていて思わずため息が口をついた。それでも「ね、ほらかわいい」そうやってふわりと笑う彼女はとても可愛いから、じゃあこれももしかしたら可愛いのかもしれないと思ったおれはきっとその甘さにだいぶ毒されているんだろう。

19/チョコレート/記憶/愛しい
ふらりと部室に顔を出したのはたんなる気まぐれだった。、部活終わりの時間を見計らって勉強の息抜き替わりに行ってみたらそこにはもう赤葦しか居なくて。「つまんないの」「じゃあさっさと帰ったらどうですか」「なんでそういうこというの」言いながら鞄の中から引っ張り出した板チョコを渡す。「ハッピーバレンタイン」ホワイトデーは3倍返しで。にやりと笑うとじとっとした目が私を見た。「3月はもう先輩いないんで今お返ししますね」椅子からガタリと立ち上がって、赤葦は私の腕を引いた。熱を感じたのは一瞬だったと思ったのに、深くて長いキスが私に浸透したと気づいたときにはもう遅かった。溶けていくのは部屋の温度のせいだなんていう言い訳がとろけていく様はまるでチョコレートのようだった。

20/萌黄/まなざし/いつまでも
あなたには春先がよく似合うと思ったのは初めて会った時だった。その優しい目を好きだと思ったのは、雪の隙間から顔を出した草の芽のにおいが鼻をくすぐった時だった。「夜久さん夜久さん」「なに」「もう春ですね!」「なんでお前はそんな嬉しそうなの」過ごすのは2回目だけど、春を迎えるのは初めてだから。「んーん、夜久さん好きだなぁって思って」「はぁ?」手をつなぐまだ寒さの残る帰り道、あなたと出会って3回目の春はいったいどんな色だろうと思ったんだけれど。「夜久さんは?」夜久さんの目に映った春はいつだって綺麗だから。一緒にいられることをただ願っていればそれでいいんだと、恥ずかしげに返ってきた2文字にふわりと笑った。

7/マリーゴールド/指/幸福ではない
彼女とお揃いにしたという指輪が光るのを少しだけ疎ましく思えたから、私はだいぶ成長したのかもしれない。彼女の指輪の色は彼のシルバーとは違って金色をしているらしい。「マリーゴールドっていうんだってよ」聞きたくもない情報を私に与える木葉さんにふうんと相槌を打つと、なんでか嬉しそうな顔を覗かせる彼に思わず頭を抱えそうになった。──幸福ではないけれど決して不幸でもない。熱くも寒くもない適温の距離を日常と呼べたら、私はきっとそれだけでよかったはずだった。ねえ木葉さん、マリーゴールドの花言葉って嫉妬とか絶望とからしいですよ。ああ、それが色の名前だってことは知ってますけどね、もちろん。
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