深夜。
そろそろ風呂に入って今日は少し早めに寝よう。
そう思って椅子から立ち上がった俺の元に入った一本の電話。



呼び出した当の本人は何も言わず、ただ黙々と酒を飲む。鬼道から幾度となく話は聞いていたので何故ななしが俺を呼び出したか、大体の内容は掴めている。泣き出さないところが彼女らしい。しかしそんな彼女の強い部分が鬼道の不安を掻き立てたのだろうか。



「…振られちゃった」
「…」
「わかってる。鬼道くんにはなんの非もないことくらい。私が悪いことも、全部」



漸く話す気になったかと思えば、ななしはまた感情に蓋をするかのようにグラスを傾けた。



「私もう、ウェディングドレス着れないかもしれないね」



そうやって笑う彼女の泣きそうな笑顔に思わず口から言葉が溢れた。



「…俺にしとけ」




わかってる。俺だってわかってる。
そんなことを言ってもななしが鬼道を思わずにはいられないことくらい。
俺のものになることなんてないことくらい。
それぐらい、前々からわかっているのに。



「不動くんはやさしいね」



ななしがそうやってまた無理に笑うから。このまま拐ってしまえたら。このままななしの中にある鬼道の存在を消してしまえたら。俺以外頼れなくなってしまえばいい。縛り付けて何処にも行かせないように。甘やかして大切にして。ななしが誰かに傷付けられる度、そいつを傷付けていいのは俺だけだって。あぁ、それができたらどんなに楽だろう。結局俺は本当のことも自分の気持ちも伝えられないまま。



そうしてそんな弱くて醜い自分を嗤った。




ガラスの靴を間違えた
(こんな感情がやさしくてたまるか)
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