小学校の頃流行ったプロフィール帳。女児向けというからにはそこには恋愛についてもばっちり記入する欄があるわけで。私も一応は流行に乗った健全な女子小学生だったから勿論書いたこともあるし、書いてもらったこともある。その記入欄には大抵、告白しただとかされただとか初恋はいつだなんていう質問と一緒に並んでこう書かれている。

"好みのタイプは?"

これがまた厄介な質問で、甘酸っぱい初恋をまだ経験したことのなかった当時の私は貰ってから授業中も家に帰ってからも永遠と考えたものだ。結局、最後まで思い付かずに『やさしい人』だとか『かっこいい人』なんかの抽象的な表現に落ち着いてしまうのだけれど。

これは私に限った話ではなくて、私以外にもそういう子はたくさんいた。現に私が書いてもらった子の半数以上はそうだったし、所詮小学生の恋愛に対しての理解なんてこんなものだ。

しかし、小学生にとって皆が皆一様の答えというのはよくある話だけれど全く面白くない。そもそも"やさしい人"というのは抽象的すぎてはっきりしない。もっと言うと、相手の好きな人を探る時に全く役にたたない。



「やさしいってなんだと思う?」
「…どうしたんですか?急に」
「昨日、部屋の掃除してたら出てきたの。懐かしいなって思って見てたら結構考え込んじゃって。」



プロフィール帳の話をすると立向居くんはあはは、と苦笑いを浮かべる。きっとこの子のことだから女の子たちに群がられたことがあるんだろう。クラス中の女子だけでは飽き足らず、男子に配っている子もいたから。



「うーん、なんなんでしょうね」そう言って次に彼は困ったような顔をする。私のこんなくだらない質問に頭を悩ませる必要なんて無いのに。少なくとも鬼道くん辺りには容赦なくバッサリと切り捨てられるだろう。困ることをわかってて立向居くんに聞くなんて自分でも悪趣味だとわかってるけど。



「んと、よくわからないんですけど、」
「うん、ごめんね。困らせちゃって」
「あ、いや、そうじゃなくて」
「ん?」
「えっと、その、ななしさん…だと思います」
「…へ?」
「あ、えと、言葉じゃ上手く説明できなくて、それで、その…」



彼の言葉に少し驚いたものの、しどろもどろしながら、それでも一生懸命に言葉を探す姿にかわいいなぁなんて少し油断していたら、



「だから、」



この子はそういう時に限って爆弾を落とすのだ。






「俺はななしさんが好きです」






それも練習中や試合中のあの真剣な表情で言うんだから思わず固まってしまって、その間に自分の言葉の意味に気づいたのか立向居くんの頬はみるみるうちに赤くなっていく。それに釣られるように私も甘酸っぱいような恥ずかしいようなそんな気持ちになって、あぁ、今絶対顔赤いだろうな、と思っているとカラカラの喉から「…は、い。」なんて声が出た。こんな小さな声が届くはずないと思ったのに、反射的に椅子から立ち上がってしまい、今までに見たことないくらいおろおろしていた立向居くんはビタッと急に何かに固定されたように私の方を向いて、一瞬ポカーンと驚いた顔をして、それから暖かくとても嬉しそうにふわりと笑った。




やさしいの定義
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