「南ちゃんってさ、凄いよね」


「だって運命の人が幼なじみで隣に住んでて、共有の勉強部屋があって、さらには甲子園にまで連れてってくれるんだよ？」
「俺はあんまりタッチ好きじゃないけどな」
「私だって好きじゃないよ」
「…なんなんだよ」
「ただなんとなく…羨ましいなって？」


そう、羨ましい。
別に私が南ちゃんになりたい訳じゃない。
運命なんて信じてさえいない。
でも、本当になんとなく、羨ましいのだ。


「……なんで疑問形？」
「羨ましいという単語だけでは表しきれない感情なのだよ、ワトソンくん」
「そんなホームズ嫌だね」
「なんていうのかなー、幸せすぎて小憎たらしいというか、でもやっぱり１人交通事故で死んでるから可哀想だとは思うの。思うだけだけど。それでそうやって思わせるところがさらに憎い。」
「憎しみしかねーじゃねーか」
「なんでわっかんないかなー」


憎い。確かに憎い。
でもそれだけじゃない別の何かがあって、その何かは簡単に言い表そうとすればするほど私の中に渦が巻く。
考えたら考えただけ深みに嵌まる。
そんなの嫌だなぁ。
私、南ちゃんのこと嫌いなのに。


「あ、」
「次は何だよ」


なんとなく、やっぱりなんとなく思った。


「…たい」
「は？」
「恋が、したい」


運命なんて信じない。
プロポーズなんかなくたっていい。
永遠なんていらない。
むしろ結ばれなくたって構わない。
ただ、キラキラした思いを、ときめきを感じたい。
南ちゃんなんかより、もっともっと青春していたい。


「じゃあさ、」


そう言った南沢の真剣な顔に呼吸が止まった。




隣の春は青い
（俺とすれば？）