私の家には現在、ペットがいます。
頭はもさもさで一日の大半をごろごろ過ごしていますが、家事が得意だったり持ち帰った仕事を手伝ってくれたりするなかなか有能なペットです。ちょっとセンスが悪いというかハイカラ?で、昔はよく泣かされたりもしましたが、なんだかんだサッカーが好きないいやつだってことを大体の人は知っています。…当人は認めませんが。名前を不動明王と言います。歳は24歳。えぇ、まぁ、人間です。

どうして不動明王が私の家に住み着いたかと言いますと、私もよくわかりません。中学の時に雷門サッカー部のマネージャーをしていた私はそのまま流れで日本代表のマネージャーになり、こいつと出会いました。まぁ、厳密に言うと雷門のマネージャーしてた時に会ってたみたいですが、そこら辺の記憶はあやふやです。そして何かの縁か同じ高校に入ってしまった私は波乱に満ち溢れた3年間を送りました。卒業と同時に不動が姿を消したことによって平和で安定した過ごしやすい日々を送っていたのです。そう、こいつが帰ってくるまでは。どうやら海外に武者修行の旅に出ていたらしいこいつは、いつの間にかヨーロッパの有名なチームでプレイしていたそうです。初めてテレビでこいつの名前を見たときは飲んでいたオレンジジュースを吹きました。返せ、私の100%オレンジ。そうしてむこうでの生活に慣れてきたある日、何故か帰国しやがりまして、それ以来シーズンオフになると願ってもいないのに勝手に帰国し、私の家に住み着くという習慣がついてしまったのです。以前、鬼道くんか佐久間くんのところに住ませてもらえばいいじゃないかと言ったところ、あいつらは五月蝿いから嫌だとか子供の我が儘染みたことを言い、じゃあ安いマンションなりなんなり借りればいいじゃないか、年収ガッポリ稼いでるくせにと言うとシーズン中の家賃が勿体無いとか変にこだわるのでもうこいつには何を言っても無駄だなと思い、そこには触れないことにしました。

そんな我が儘で行動が読みやすいんだか読みにくいんだかよくわからないやつが今日はどこか変なのです。確かに普段から変なんですけど。家に着いて玄関を開けると部屋の奥から漂ってくる焦げたような臭い。案の定いつもは完璧な夕食の魚が墨でも被ったかのように真っ黒で、いつもは見かけることのない洗濯物の山が出来上がっており、掃除機はコードとホースが仲良くじゃれあっていたのです。そして全ての元凶であるピンクジャージのもさもさはまるで拗ねているかのようにソファーに寝転がり、こっちを見ようともしないのです。全く、拗ねたいのはこっちだバカ野郎。



「…なにしたの」
「…」
「不動?」
「…失敗した」



それは見ればわかるんだが。このままではどうにもならないのでソファーまで寄ってその肩を叩いた。しかしなんて頑固なんだろう、不動は頑なにこちらを見ようとしない。



「…とりあえずご飯食べよっか」
「…いい」
「へ?」
「食べなくていい。…てかあんなの食えねえだろ」
「勿体無いでしょ。それに不動が折角作ったのに」
「…あほか」
「なんとでもおっしゃい」



私の言葉に少しだけ笑うと不動はもぞもぞと動いて体を起こした。



「…その前に話がある」
「ふむ。申せ」
「なんだそれ。まぁいいや。ほら、これやる」
「…なにこれ」
「なにって指輪だろ?」



だからそれは見ればわかる。不動が投げて寄越した箱はまるで指輪でも入っていそうなもので、見た目通り実際中には指輪が入っていた。しかし、何故不動が私にこんなものを?頭の中はクエスチョンマークだらけだ。



「…何?プロポーズに失敗でもしたの?」
「お前、本当にあほだな」
「あんたに言われたくない」



あきおばか。やはりこいつの考えは私には理解できない。ぐぬぬっと顔をしかめると不動はまるで馬鹿騒ぎしてる小二男子を見るような目付きでこちらを見てきた。私は牛乳瓶のキャップなんて集めたりしないやい!横断歩道の白いところだけ渡ったりしないやい!馬鹿にしやがって!確かにあんたよりは馬鹿だろうけどさ!

そんな私を放って不動はフーッと長い深い溜め息を吐く。なんだか本格的に馬鹿にされてる気分だ。あぁ、もうこんな恩知らずな奴なんて知るか!どうして自分が快適な空間で過ごせているのかわかってるのか毛玉!



「…結婚、しろよ」
「…は?」
「だから、結婚しろって!」
「誰と?」
「あぁー!お前本当に馬鹿だな!」
「お前が言ってる意味がわからんのだ!馬鹿じゃない!」



そうしてひとしきり言い合うとまた不動は深い溜め息を吐いてそれから真っ直ぐ私を見て言った。



お前なんか誰も貰ってくれねぇだろ。だから俺が貰ってやるって言ってんだよ



言い終わると不動はまたソファーに横になって丸まってしまった。失敗して拗ねて呆れて怒って…こいつはアホか。そもそもなんだその台詞は、私に対して失礼じゃないのかこんにゃろ。



「不動くん、不動くん。私達付き合ってないんですけどー?」
「…」
「シーズン中しか働かないし?すぐムキになるし?センス悪いし意地悪だし。不動くんとやっていくの大変だろうなー」
「っ、お前なぁ…」
「ま、不動くんなんかと暮らせるのなんて私ぐらいでしょ。しょうがないからこれからもあんたの味噌汁飲んでやりますよーだ」
「…お前に飲ませる味噌汁なんてねぇ」
「なんなんだよ!」



私の家には現在、ペットがいます。
頭はもさもさで一日の大半をごろごろ過ごしていますが、家事が得意だったり持ち帰った仕事を手伝ってくれたりするなかなか有能なペットです。ちょっとセンスが悪いというかハイカラ?で、昔はよく泣かされたりもしました。そんな奴ですが私はなんだかんだこいつと一緒にいるとほんのちょっと、本当にほんのちょっとだけ楽しかったりします。




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