「またやったの?」
「また振られちゃった」



えへへ、と笑いながら私の家の前にしゃがみこんでいる彼は言った。



彼、吹雪くんは簡単に言ってしまえばヒモである。
表向きにはプロサッカー選手として少年達からは憧れの目を向けられ、その甘いマスクで女の子たちから人気を集めているが、それらは全部本当の彼を知らないから出来ることであった。

事実、彼は夜な夜な街で女の子を引っ掛け、衣食住を確保しているヒモ男だ。彼がそこでの生活に飽きると、自分から出て行ったり、追い出されたり。時には女の子の元カレやら今カレなんかが出てきた、なんて話もそう珍しくはない。そんなことをこれまで幾度も繰り返していた。どうしても女の子が捕まらなかったとき、もしくは住みかとしていた場所から追い出されたとき、彼は私の家に来る。とは言うものの、ルックスの良さは伊達ではなく、前者の場合は極めて稀だ。今日みたく雨が降っていたりして偶然、なんてことが殆どだ。

一先ず玄関の鍵を開け、彼を中に入れる。それから洗面所で化粧を落とし、部屋着に着替え、空腹を訴える腹のために遅めの夕食を作る。その間に吹雪くんには風呂に入ってもらう。全て終わらせてソファーで一息吐くと、一日分の疲れがドッと身体に押し寄せた。そうして休んでいるとテーブルにマグカップが置かれ、吹雪くんが私の隣に腰を下ろした。



ごんべちゃんは、僕を一人にしないよね?
「…どうして、そんなこというの?」
「うーん、なんとなく?」


唐突に変な質問を投げ掛けてきた吹雪くんはまたえへへ、と笑っていたけれど、私はなんだか気持ち悪いような怖いような、そんな違和感を感じた。



「…きっと、吹雪くんだよ」
「、え?」
「私を置いていくのは吹雪くんだよ」



そう言うと彼はキョトンとして、それからどこか安心したように笑った。その笑顔にあぁ、やっぱりいつもの吹雪くんじゃないか、なんて少しだけ失礼なことを思ってしまった自分を叱った。



「置いてかないよ、僕はごんべちゃんを置いてかない」



彼はそのあといろんな話をしてくれた。サッカーやチームメイトのこと、たまたま入ったカフェのケーキが美味しかったこと、街が少しずつイルミネーションされてきて綺麗なこと、そして明日からのこと。船をこぎだした私に彼は寝ていいよと言ったけれど朝起きたらきっと君はいないんだろうね。それをわかっていながら引き留められない私はなんて愚かなんだろう。心中ため息を吐きながら眠りに落ちていく中で何かが頬に触れたような気がした。




意気地無しはどちら様


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