別冊ネタ帳。

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☆『渡り廊下でふたりきり』みあさんより!(三成夢)


暖炉のある家に住みたい。
 突拍子にどこか遠い目をして言ってのけた彼女の横顔をちらと見る。水曜日はほとんどの部活動が活動をしない唯一の曜日だ。教師が勉学に励ませるために設けた週に一度の休みだが、このような理由だと持ち掛けられるとどうも嬉しくはなくなってしまうのが学生の性ではないだろうか。教師の思惑とやらは微塵も生徒たちは受け取っておらず、今日も今日とて買い物だのカラオケだのゲーセンだの。昇降口から開放感にあふれた笑みを浮かべて街へ繰り出していく光景を彼女と三成は見ていた。二人はというと廊下の窓の前で立っていたわけだが、季節も季節なので肌寒い。しっかりとセーターとブレザーを着込んでいる三成に対して、彼女はベストの上にブレザーをボタンがら空きで羽織っている。窓は閉まっているが、ぴっとりと手のひらをつけてみると当然のことながら冷たい。彼女の吐いた息が窓ガラスに掛かって白く色付いていた。

「暖炉ってさ、毎日使うとなると大変そうだけど、うん、何か見ていても暖かいし、ロマンだと思うの」

 彼女の感性は、三成にはあまりわからないけれども、童話好きな彼女のことだ。きっとそういったメルヘンチックな雰囲気に憧れているのだろう。童話といえば西洋の話が有名だし、ヘンゼルとグレーテル然り、シンデレラ、というか灰かぶり然り、日常茶飯事に暖炉は出てくる。かの有名な赤ずきんの原型では、狼が少女の洋服を暖炉で燃やし、裸でベッドに入るよう命じ、だのなんだのと彼女が話し始めたことがあるのだが、何だか先行きが不安だったので三成はその話を自粛してもらった。語りたかったことを止められて少しむっとした彼女のふくめっつらは地味に覚えている。童話とは子供向けに出来た話ではないのか、何だそのアブノーマルな展開は。汚い大人が滲み出ているではないか、と彼女に言えば、よくわからないけれど、だからこそ改変されたのでは、と返された。確かに一理ある。

「貴様が何を求めているのか私は時々理解に苦悩する…」
「あはは、そうかもしれないけれどさ。別に森の中に住みたいとかは思っちゃいないけど、住宅街から少し離れた目の前には林のある檜のいいにおいのする家に住んでみたいなあ。小学生の友達の家がそんな感じでね、あの雰囲気、好きだったんだよなあ」

 過去に思いを馳せるように彼女がそう言う。悪いとは言わないが、自給自足の生活のような気がしてならない。それは言い過ぎか。

「こう…静かに物を書いて暮らしたいね。あったかい家で」
「些か理解し難いが…貴様についていくと退屈しなさそうだ」
「来る?」
「いいのか」

 目を細めて三成が彼女のまあるい瞳をじっと見つめれば、私も三成くんと一緒の方が楽しいもん、とほがらかに笑いながら返された。私、のほほんとしてるから三成くんみたいなしっかり者さんがいないと野垂れ死にしそう、なんて言ってのける。じんわりと胸が暖かくなって三成は彼女を引き寄せた。寒い廊下も二人がくっつけば温かい。彼女ははにかんで、そろそろ教室戻ってストーブでもつけようか、と提案するが、三成はもう少しだけこのままで居たいと言ったので対して否定することも無くすんなりとその申し出を受け入れる。学校に残る水曜日も悪くない。三成はそう思って、彼女で暫く暖を取っていた。



渡り廊下でふたりきり
(こんな逢瀬も)
(ありだと思いつつ)



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いつもツイッターでお世話になってるみあちゃんから、相互記念に石田夢小説いただきましたー!
良いですね、暖炉がある家…私も憧れますー!
メルヘンなヒロインちゃんにほのぼのした気分になりつつ、
ついてこさせる側ではなく、ついてくる側の石田にときめきが抑えられませんでした…!
おかげで発熱と動悸が止まらないんですが、どうしてくれるんですかみあちゃん…!!
こちらから献上したのがあんな残念絵にも拘わらず、本当に素敵な小説ありがとう!
これからもどうぞよしなに!

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