今夜はおわらない


柄本からヘルプの要請があり、身支度も早々に駆け付けた先に居たのは如何にもな風貌の男たちだった。なんでもあの狂犬の喧嘩を吹っ掛けたらしい。この街の住民で知らない人間はいないだろうと思っていたが、とんだ命知らずもいたもんだと話を聞くと、抜けきっていない地方の訛り。それならば仕方ないかと柄本と顔を見合わせて笑った。

柄本医院を出た頃には、とうに夜の帳に包まれていた。白衣に手を入れ、煙草と安っぽい100円ライターを取り出す。一本を咥えてフィルターを噛み、火を灯す。
天下一通りを外れたこの通りは比較的風俗店も少ないが、とはいえあの神室町だ。遠くでキャッチの声や酔っ払いの怒声が聞こえてくる。病院という静かな空間から日常に戻ってこられた様な気がした苗字は溜息とともに煙を吐き出した。

神室町は眠らない。
終電も終わった時間だというのに飲食店や風俗店のネオンが街を照らし、夜といえど人々に影を作る。終電を逃し朝を待つ人、これから1日が始まる人、ヤクザ、浮浪者、外国人、様々な人間が生きるこの街をまるで人生の縮図のように苗字は感じていた。空に昇る煙を追いかけて見上げると空は薄らと明るい気がした。

一瞬街の音が消えた気がした。世界から拒絶されたような気がして、なんともいえない感情が胸を締め付けた。酷く孤独と胸騒ぎを感じる。肺に溜めた紫煙を吐き出しても、強めのメンソールも、そのわだかまりを晴らすことは出来なかった。

家へ帰ろう。
こんな日はさっさと寝てしまった方がいい。
短くなった煙草を携帯灰皿に放り込んだタイミングで、ポケットのスマートフォンが着信を知らせた。煌々と光る画面には“上野和彦”の文字だった。

午前2時を迎えようとしている。この時間に上野からの着信だ。間違いなく仕事の依頼だろうと、苗字はげんなりしながら画面をタッチした。

上野和彦。
研修医時代に知り合った検察官ある。柄本の手伝いとして病院に行き来いてはいるが、あくまでアルバイトとしてであり、苗字の本職は外科医ではない。天下一通り通りを抜け、靖国通りでタクシーを拾う。目指すは上野が待つ大学病院。

ーーー法医解剖医。
その相手は生きた人間ではなく、口を閉ざした死んだ人間である。






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