エンドロールはおふたりさまで


真島さんからの集合連絡はいつも突然だ。帰宅後、シャワーを浴びようとした矢先に届いた“遊ぶで!”のメッセージ。それでも好きな人からの連絡が嫌な訳もなく、私は化粧を直し、劇場広場前のゲームセンターへと向かった。

真島さんはゲームセンターの入口で煙草を吹かして待っていた。彼は不思議な人だ。堅気ではないというのに私に優しくし、私を笑わせてくれる。それは不安になってしまう程に。駆け足で近付くと、真島さんは待ってましたと言わんばかりの屈託のない笑顔で遊ぶで!と言うものだから、私も釣られて笑った。

UFOキャッチャーやレーシンングゲームでひとしきり遊んだ後、次は何で遊ぼうかと店内を回っていると、視界に入った一台のゲーム台。グロデスクな筐体と二丁の拳銃。

「真島さん!次これやりたいです!」

私が選んだのはガンシューティングゲーム。何度かプレイをしたことはあるが、未だにエンディングに辿り着けていない。真島さんとなら、きっと最後まで辿り着けるだろう。どうせなら一緒に見たい。筐体に真島さんが取ってくれたぬいぐるを乗せ、その隣りに100円玉を積み上げる。この十数枚の硬貨が私の命となるのだ。

二人分のクレジットを入れ、オープニングムービーを眺める。街にゾンビが溢れ出し、それを男女のバディが協力し合って脱出をする、そんなよくある話だ。隣に並ぶ真島さんはというと、ストーリーには然程興味がないのか、銃を構えたり、振ってリロードの感触を確かめたりと操作方法を確認している。

「もしかして真島さん初めてですか?」
「初めてやないんやけど、チャカあんまし使わへんからなぁ」
「チャカですか…」
「チャカやな」

喧嘩はもっぱらドスかステゴロやから!、と少し誇らしげに言う真島さん。“初めてやない”が、果たしてこのゲームなのか、はたまた別を指しているのか。深く考えないようにしよう。

そうしている間にオープニングムービーも終わり、早速リアルなゾンビが私たちに襲いかかってきた。二人で並んで銃を構える。

「行くで名前ちゃん!」
「はい!」





「いやぁ、それにしても名前ちゃん…」

襲いかかってくるゾンビの量に悪戦苦闘していると、真島さんは慣れた手付きでヘッドショットを決めた後、拳銃を揺らし銃弾を補充をした。

「へったくそやなぁ!」

真島さんが私に茶々を入れる。横顔で表情は読めないが、肩を震わせているあたり笑っているのだろう。何度目かのコンテニュー画面が映し出され、私は肩を落とす。残念ながら反論が出来ない。真島さんはというとライフポイントすら減っていないのだ。

「うぅ…善処します…」
「イッヒッヒ!ええよ!安心して守られとき!」

真島さんはそう言うと、一人でずんずんとステージを進んでいく。ゾンビと対峙出来ることが余程お気に召したのか、いつになくテンションが高いのはきっと気のせいではないだろう。

はっきり言って真島さんは上手い。ダメージを食らわないのもそうだが、一体一体を的確に倒していくのだ。各ステージ終了後のリザルト画面にデカデカと表示される“S”の文字がその証拠だ。悔しいが私はただ着いて行くだけ。私は少なくなっていく100円玉の山から、何枚目かの硬貨を手に取り投入口に落とした。

数ステージをクリアし、いよいよラストステージのボスを前にした時には、流石の真島さんもライフは残り一つとなっていた。コンテニューをせずここまで来た真島さんに、素直に感心する。私はというと、あれだけ積み上げていた100円玉が残り一枚である。

「名前ちゃん一人じゃクリア出来へんかったかもな」
「いやいや、お金こそ力です。注ぎ込めばクリア出来るってもんですよ」
「ヒヒッ!ヤクザ相手に何言うとんねん。名前ちゃんのそういうとこ、ほんま好きやで」

どきりと心臓が高鳴る。好きな人からのその言葉にときめかないわけがない。が、そうも言ってられない状況だ。私は拳銃をしっかりと握り締め、画面に向き直った。

そうして迎えたボス戦だったが、行動パターンが同じことの繰り返しで、今までのボスに比べて手応えをあまり感じなかった。私も慣れてきたのか、真島さん会話をすることが出来るぐらいの余裕が出来てきた。画面から目を逸らさず、ふと頭によぎったことを口に出した。

「真島さーん」
「なんやー?」
「もし私がゾンビになったらどうしますか?」

ズガガガガ、と鳴り続けるマシンガン。続けてボスが崩れ落ちた。ようやくエンディングに辿り着けることは嬉しくなった私は、その喜びを共有しようと真島さんの方を向くと、ゾンビに向けられた銃口が私を捉えていた。

「真島さん?」

目がすぅと細められ、銃口ともに私を見下ろす。いつも笑う真島さんの見たことがない表情に、私は思わず口を噤んでしまう。その瞳に映る私の姿はどんな形をしているのだろうか。向けられた銃口が、額にピタリと付いた時、真島さんは口を開いた。

「俺がきちんと殺したる」

私はその言葉に、何故か安堵する。

そうか、私はずっと不安だったのだ。
彼に優しくされ、甘やかされて、私の存在が真島さんを弱くさせているのではないかと。大丈夫、真島さんは私を切り捨てられる人。

「痛み感じへんよう、殺したる」

真島さんはそう言うと、慈愛に満ち溢れたような笑顔を浮かべ、人差し指でトリガーを引いた。その優しい眼差しに、良かった、と私は頷いた。

求めていた答えを得た私は、ボスも倒したことだし、と手にしていた拳銃を台座に置こうとする。しかし倒した筈のボスが姿を変え起き上がり、再び私たちに襲いかかってきた。完全に油断していた私たちは、その怪物の攻撃をもろに受け、あえなくコンテニュー画面となってしまった。

「あぁ、名前ちゃんが変なこと言うもんやからやられてもうた」

第二形態があるとはな、と悔しがる真島さんに、進み続けるゲームオーバーへのカウントダウン。真島さんを見ると、私に向けていた拳銃は怪物へと向けられていた。

「名前ちゃんどないする?ここで仲良く心中選んでもええし」
「やだなぁ、一緒に死ぬだなんてやめて下さいよ」

私はそう言って残った最後の100円玉をかちゃんと投入した。

「今の100円、前払いですからね」

真島さんは、承知したと言わんばかりに頷き、再びトリガーに手を掛けた。ゲームの私はここでリタイヤしてしまったけれど、真島さんはきっとエンディングに辿り着ける筈。そうして固唾を飲んで真島さんを見守る。最後の銃弾で怪物を射抜いた。

崩れ落ちた怪物と、それを見詰める真島さん。エンドロールを最後まで見ることなく、真島さんはクリアしたことなのか、はたまた私の答えに満足したのか分からないが、さっさと拳銃を置き、別の筐体へと向かってしまった。

ふと、真島さんが足を止めて振り返る。そのまま何かを探すようにポケットを漁り始めた。見つかったそも何かを親指に乗せ、ピンと弾いた。宙を舞うそれはきらきらと照明に反射して、そのまま私の手の中に収まる。掌を開くと一枚の100円玉。

「やっぱりもっとき」

そう言うと真島さんはすたすたと歩いて行ってしまった。掌のコインをギュッと胸の前で握り締めた。それは祈りにも似た姿だったと思う。そうして私はぬいぐるみを手に、慌てて真島さんを追いかけた。だってエンディングは一緒に見なければ意味がないのだから。

「真島さーん!プリクラ撮りましょー!」





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