吐いちゃいな!


「趙さぁん!」

バン!と扉が壊れるのではないかというくらい勢いよく開くと、べろんべろんに酔っ払った名前ちゃんが千鳥足で入ってきた。仕事終わりだったようで、スーツ姿ではあるが、ワイシャツは第二ボタンまで外しており、そのたわわな胸の谷間が顔を覗かせていた。

そんな様子を見た勇者ご一行はぎょっとした表情で名前ちゃんを凝視している。ご指名された俺は重い腰を上げ、名前ちゃんのところまで向かった。

「趙さぁん!聞いてくださいよぉ!」

最早呂律の回っていないたどたどしい口調で俺の名前を呼ぶと、俺の胸に抱きついてきた。素面の時の名前ちゃんはここまで積極的な態度を取らないせいか、これは役得だと舞い上がりそうになるが、いかんせん泥酔状態だ。よくここまで辿り着いたと感心してしまう程に。

名前ちゃんを抱き締めたまま振り返ると、カウンター席に座る春日くんは顔を赤くしながら俺たちの様子を見ていた。

「聞いてますかぁ〜?」
「うんうん、聞いてるよ」

そう言ってうなづくと、満足そうにへにゃりと笑い、「マスター!生!ジョッキで!」と大声で叫んだ。まだ飲むのかよこの子。目でマスターに助けを求めると、ビールサーバーから並々と酒を注いでいた。おい、嘘だろ。

俺の体から顔を覗かせ、その様子を見た名前ちゃんは、嬉しそうに、この子が犬だったら尻尾が千切れんばかりに振っているのではないかというような様子でカウンター席に駆け寄った。真っ直ぐ進めていない。パンプスなんか途中で片足脱げてるし。春日くんなんか、慌てて椅子から落ちそうだぞ。

マスターからジョッキを受け取り、間髪入れてゴクリゴクリと喉を鳴らせた。見事な飲みっぷりに、思わず感心してしまうところだったが、パンプスを拾い上げ、慌てて名前ちゃんの隣に座った。

「それでねぇ?聞いてくださいよぉ!」

ぷはー!と思わずおっさんかと突っ込みを入れそうになるような飲みっぷりを見せ、ジョッキをどん!とカウンターに叩き付けた。勢いで溢れたビールを、マスターから受け取ったお絞りで拭いてやる。

名前ちゃんはというと、そのまま崩れるようにうつ伏せになり、腕の隙間から俺を見上げた。名前ちゃんの頬は紅潮して色っぽ…駄目だ、完全に目が座っている。

仕方がなく話を聞いてやる。舌が回らない状態でふにゃふにゃ言っているが、頑張って要約すると“一生懸命企画書を用意したのに、先輩の手柄を持っていかれた”らしい。

「そっかぁ〜大変だったねぇ」
「そうなんですよぉ!頑張ったのに!」
「そうだねぇ〜頑張ったのにねぇ」

気のない返事でも、名前ちゃんは満足なのか、それでね、あのねと一生懸命言葉を続けた。なんだかその様子が可愛らしくて、頭を撫でてやると名前ちゃんは顔を突っ伏してしくしくと泣き始めた。しまった。

そろそろ誰か助けてくれと隣を見ても、さっきまでカウンター席にいた春日くんたちは、いつの間にかボックス席に移動しており、あろうことかUNOを始めていた。「ここでスキップです!」「ハン・ジュンギ、てめぇ!」

「だからぁ…ヤケ酒して…ひっく…そしたら急に寂しくなってきてぇ…趙さんに…会いたくなったの」

名前ちゃんはちらりと顔を覗かせる。その瞳は涙で潤っており、赤くなった頬と舌足らずな話し方と相まって、まぁなんていうんだろう、凄く官能的だった。頭を撫でていた手が思わず止まってしまう。

「趙さぁん?あのね…?もっと愚痴言ってもいい…?迷惑、かな?」
「名前ちゃん…」

これだから酔っ払いの相手は嫌なんだよ!

「いいよぉ!この際どんどん吐いちゃいな!」

顔を真っ青にしてトイレに駆け込む名前ちゃんを介抱するのは、やっと春日くんが一抜けした頃だった。「よっしゃ!上がり!」「一番!お前UNO言ってねぇだろ!」






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