「で、どうしたの?」
「それで、その後がさぁ」
×××再び回想
「安仁絵、お前のモーターバイク使って良いか?」
「は?なんで」
「悠斗達が乗ってみたいって言い出したんだよ、良いだろ?」
(アイツが…)
「やだ」
多分、物凄く嫌そうな顔をしていたと思う。だって、あのモーターバイクは触らせたくなかったのだ。私にとって、とても大事な物だったから
「えー…わかった、言っとく」
そう言って兄は走っていった。私は窓を閉めて、再度ベッドに寝転がる。外から不満そうな声が聞こえてきたが、気にしない。あれは…あのバイクだけは、絶対にダメだ
少しして、外からガギャァッ!という音が聞こえた。…転んだ?馬鹿じゃん
「安仁絵ー!」
バンバン、と私の部屋の窓を叩く影。声からして、兄?窓は開けずに私は「何?」と聞いた
「ごめんっ!」
嫌な予感が、した。靴を踵を踏んだまま引っ掛けて、兄達が遊んでいた場所へと走る。「安仁絵…」全員の視線が、こちらへ向く。中心には私のモーターバイクが横たわっている。その傍らに、アイツが居た
「なんで…」
「…ごめん、勝手に使って平気だろって思って…」
私の前まで来て、申し訳ない顔をして説明するソイツ。なるほど、さっきの音はやはり転んだ時の音だったのか。そう理解すると同時に、私はソイツ…悠斗に向かって手を振り上げた。パァンッ!と乾いた音がして、私の掌に熱い衝撃が走る。どうしようもなく、むかついた
「安仁絵!」
兄に腕を掴まれ、押さえ込まれる。今度は足が勝手に動いて悠斗の腕に掠った
「だって…!」
「安仁絵、落ち着け!」
落ち着ける訳が無い。断ったのに勝手に使われて、その上ボロボロにされたんだ。他の物でも怒るのに、どうしてよりによってこのバイクなんだよ
「最っ低…死ね!!」
そう叫んで、兄を振り払って走って部屋に戻った
私には、父親が居ない。1年生の2学期、しかも母親の誕生日の日に別居して引っ越した。2年生のクリスマスに会ったきり、一度も会ってない。その父から去年のクリスマスに送られてきたのが、あのモーターバイクだ。そして今年に入って、両親は正式に離婚。あのモーターバイクは父親からの最後のプレゼントとなってしまった