そして、とうとう今日がやってきてしまった!
『とうとう、合唱コンクールの日がやってきました!』
うっせぇ、アンタの声なんて聞きたくねぇんだよ。死ね、消えろ。心の中でそう言い続ける。ああ、視界にも入れたくないのに前を向けば必ず奴が…松田悠斗が見える。だが、教師が居るので後ろを向く訳にもいかない。かといって下を向いても、横を向いても私の視野は広いので奴の姿が目に入る。畜生、広い視野が仇になりやがった!
『それでは、審査員の方々を紹介します』
あ、これって確か立ってお辞儀するんだよね。やば、ちょっと緊張する
『2年1組、木野安仁絵さん』
なるべく緊張を顔に出さない様に立ち上がって、なるべく自然な動作でお辞儀をする。パチパチとまばらな拍手の後、また自然な動作で席に着いた
『2年2組…』
私のクラスがある方から、安仁絵全然緊張してないね〜と言う声が聞こえてくる。いや、緊張してないんじゃなくて緊張してない様に見えるだけだから!心の中で叫んでも皆に聞こえるはず無く、私は仕方なしに1年生の審査を始めた
「安仁絵、消しゴム貸して」
「ん」
「ありがと」
隣の女子生徒に消しゴムを貸して、私は再び自分の持っている紙に目を落とした。今、歌っているのは2年3組。声量はあるが地声の人が多い、男子に至っては態度が悪すぎる。音楽を馬鹿にされてるようで、ちょっと…いや、結構ムカつく
「減点…だな」
「だね」
態度の欄には1〜5までの数字が並んでいて、私は迷うことなく1に丸を付けた
「安仁絵、厳し〜」
「アンタんトコ男子も態度が悪かったから2にしてある」
「え…」
「うるさい、静かに審査しなよ」
冷たく言い放って声量の欄に4を、ハーモニーの欄には2に丸を付けた。ま、ウチのクラスの男子も相当態度悪かったらしいけどね。もう最悪だ
『ここで、休憩を取ります』
そのアナウンスの声と共に生徒達は一斉に伸びをしたり、話し出したりしている
「安仁絵ー!」
席から立った時に大きく名前を呼ばれて、私は思わず私の名前を呼んだ人物、麻衣を叩いた
「いったぁ!」
「うるさい。で、何?」
前と後ろで若干声が違うとか、そういうのは気にしない
「全然緊張してなかったよね、なんで?!」
「いや、緊張してた」
「嘘だぁ!」
「いや、マジでしてたから!」
京子の質問に答えると、また麻衣が変な声で叫んだからもう一発頭を叩いてやった
「えー、全然見えなかった!」
「ね、超落ち着いてた!あたし慣れてますけど?みたいな感じで!」
「慣れてねぇよ、幻覚でも見えたんじゃない?」
私の言葉に、首を振る二人
「いや、男子たちも言ってたし」
「木野全然緊張してねーな!って」
普通に私の言葉を否定してくる京子と、変な声で(多分男子の声は真似出来てなかったんだ)で同じ様に否定してくる麻衣
「ま、なんでも良いよもう。っつか、アレの居るクラスだけ評価下げちゃ駄目かな?!」
「「駄目でしょ/良いんじゃない」」
あ、アレって黒くてギラギラしててカサカサ動くアレの事じゃないからね?松田悠斗、奴の方ね。ま、同じレベルくらいな気がしなくもないけどさ。二人もそれを分かっててか、私に聞いてくることなく返事をしてくれる。こういう時だけ意見が真っ二つに分かれる二人は見てて楽しい。ちなみに私の意見に賛成したのが麻衣で、反対したのが京子ね
「いやいやいや、さすがに駄目でしょ」
「え〜?面白そうじゃん!」
「いやいやいやいや、だって沙織先輩のクラスだよ?!」
「「あ」」
京子の言葉に、同じ様に声を上げる私と麻衣。ヤツのクラス=沙織先輩のクラス→評価を下げる→理由を知られた時に沙織先輩に怒られる!!
「あ、んじゃ止めとこ…」
ちょっと考えた後、私はそう言った
「うん、ウチもそうしといた方が良いと思う…」
麻衣も渋々ながら私の意見に賛同して、二人して溜め息をついた
「う〜ん…でも無意識の内に下げそうな気がするんだけど、どうすればいい?」
「「そこまで嫌いなn「うん!」
二人のハモる声を遮って私は即答した、多分二人は「そこまで嫌いなのかよ」って言うつもりだったんだと思う。だったら、聞くまでも無いじゃん
「んじゃ、無意識の内に評価下げてないか後で確認しとけば」
「そうする!」
そう言ったと同時にタイミング良く放送が入り、私は審査員席に戻らなければいけなくなった
「じゃね」
「「じゃあね〜」」
これから3年の発表が始まるのかと少し期待する心と裏腹に、頭の中はアイツへの嫌悪感でいっぱいだった