トリック・オア・トリートの悲劇





「とりっく・おあ・とりーと!」

 シーツを被せた塊が飛び出してきたのは突然のことだった。ばあっ、と手を広げている幽霊(らしきもの)は俺たちを脅かしたかったのだろうか。すでに正体を察知して全力で和んでいる仲間を横目に、俺は幽霊にこう言ってやる。

「わ、びっくりした!」
「えへへー」

 すると幽霊はシーツを退けた。そこにいるのは予想通り、笑顔の乱太郎だ。

「びっくりしましたか?」
「うん、驚いた」
「へへー、大成功です!」

 にこにこと機嫌よさそうにしている乱太郎を見て和んでいると、ぐいぐいと妙に強い力に押し退けられた。犯人は見なくても分かる。雷蔵だ。

「乱太郎、はい。約束通りカボチャのクッキーだよ」
「わぁ!ありがとうございます!」

 おお、あの雷蔵が悩みもせず乱太郎にお菓子を与えている。珍しいこともあるんだな……というか約束ってなんだ。抜け駆けか。あと足痛い踏むな。
 きゃあきゃあとはしゃぐ乱太郎はそりゃもう可愛らしいけれど、雷蔵の行動によって水面化ではバトルが始まろうとしている。いや、むしろ始まっていた。
 とりあえず踏まれている足を逃がそうとしているとくくっちゃんが乱太郎に近付いていった。なんか嫌な予感がする。

「乱太郎!俺からはこれをやろう」
「久々知先輩、ありがとうございます!えっと…マシュマロ…?」
「本当は俺の豆乳で作ったクッキーにしようと思ったんだが、思い直してマシュマロのように見える豆腐を開発してみた」
「くくっちゃん発言がアウトォオオオ!」

 八左ヱ門が、くくっちゃんを全力でしばいた。いいぞもっとやれ!床とキスしているくくっちゃん(あ、雷蔵が締め上げ開始した)を尻目に、八左ヱ門は乱太郎に向き直る。

「乱太郎、俺からはこれな」
「…ええっと?」
「虫入りキャンディだ!」

 わぁ、いい笑顔!乱太郎の顔が引きつってるのが見えてないのか?見えてないな…うん…。
 乱太郎の手の平に虫入りキャンディ(しかも5本)を渡した八左ヱ門がくくっちゃん私刑タイムに合流した瞬間、それまで感じなかった特大の嫌な予感がせり上がってきた。ハッと乱太郎に目をやると、そこには三郎が少々ヤバい目で立っている。

「乱太郎…ごめんな、私は菓子を用意していない」
「なんと!じゃあいたずらしちゃいま…すよ…」

 乱太郎の声がフェードアウトする。それもそうだよな、目の前にいる人間の目が全力で「悪戯期待」って語ってりゃ誰でも引く。

「私は乱太郎になら何をされても構わない。さあ!ひと思いに!さあ!」
「え、えっと…」
「うん、じゃあお望み通りひと思いにやっちゃうね」
「えっ…」
「あっ…雷蔵……様…」

 全力で引いてる乱太郎を助けたのは、全力で恐ろしい般若を背負った雷蔵だった。この先は何も語らずとも、オチは分かるだろう。

「乱太郎、ちょっとあっち向いててね」
「えっ…あっ…はい…」
「見捨てないで乱太郎!諦めないで!」
「うん、三郎はちょっとこっち来ようか」
「えっ…ああっ…さ、三郎先輩がドナドナされていく…!」
「乱太郎」
「尾浜先輩!三郎先輩が!雷蔵先輩に!」
「尊い犠牲だった…」

 どうしましょうどうしたらいいですかと慌てる乱太郎に、俺はチョコレートをそっと渡してやることしかできなかった。


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