自惚れを巡る攻防戦



 お前は私のことが好きなのだろう?と、自惚れの強い先輩は言う。

 最上級生である証の緑青色の忍び服に身を包んだ彼は、初めて出会った二年前と変わらぬ笑顔を浮かべていた。背も伸びて、顔付きも精悍さを帯びて、口に釣り合うだけの実力と知識も、持っている人なのだけれど、滝夜叉丸先輩は何も変わらない、と乱太郎は唇を尖らせた。

「大層な自信ですね、今に始まったことじゃないですけど」
「事実なのだから自信もなにもないではないか」
「…滝夜叉丸先輩のそういうところ、嫌いですっ」

 滝夜叉丸から目を逸らしつつ呟いた乱太郎は、気付かれぬようにこそりと彼の表情を窺う。そこにあるのは絶対の自信に溢れた、笑顔だった。

「昔は、嫌いって言ったら困ったような顔をしていたくせに」
「お前が私に投げるその言葉は照れ隠しだと気付いたからな」
「困り果てた顔の滝夜叉丸先輩は可愛かったのに。そんな先輩は好きだったのに」
「どうとでも言え」

 良い意味でも悪い意味でも、先輩は七松先輩のようになってしまった、否、元からこんな人だったと乱太郎は思い直した。
 こちらの気持ちなどお構いなしに、断定の言葉を投げてくる彼は、委員会で無茶をするような先輩ではないが、十分に暴君だ。乱太郎は伸ばされた手から、つい、と顔を逸らした。

「何故、事実を口にしてはならないんだ?」
「…事実かどうか分からないじゃないですか」
「お前、私のことが嫌いになったか」
「さあ、そうかもしれませんね」
「それは嘘だ」
「何故ですか?」

 さて、滝夜叉丸先輩は何と返すのだろう。頬に添えられた手に顔を預け、上目遣いに彼を見上げると、彼は至極真剣な顔をしてこう答えた。

「私を愛さぬお前を、私が愛せるはずはない。転じて、私がお前を愛しているということは、お前も私を愛しているということに他ならない」

 何か間違っているか?と真面目に問うてきた彼に、貴方らしいですね、と乱太郎は苦笑した。そんな私を、お前は好きなのだろうと得意げに言う彼の口を、塞いでしまおうと背伸びをする。

 自惚れの強い先輩、そんな彼に愛されている自信がある自分ももしかしたら自惚れ屋なのかもしれない、なんて思いながら。


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 なんだかんだで好きあってる二人。


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