褒め言葉にまつわるエトセトラ



「私、二人のこと本当にすごいと思うんだ」

 六年生の忍たま長屋の中庭で虫かごの修理をしていた孫次郎と一平は、縁側から投げられた声に顔を見合わせる。
 少し前に音もなく現れたその人が、自分たちの作業を見つめていることには気付いていたが、掛けられた言葉は余りに意外なものだった。

「乱太郎、僕は伏木蔵じゃないよ?」
「分かってるよ、孫次郎。あと一平、何空見上げてるの」
「いや、乱太郎が僕を褒めるなんて、どんな天変地異の前触れかと思って」
「失礼な」

 乱太郎は頬を膨らませているけれど、二人はどうしても疑ってしまう。

 は組の乱太郎は、ろ組に対しては素直だが、い組に対してはちょっと警戒するところがあった。それは乱太郎ばかりが悪いわけではなく、一年生の頃から、い組とは組は何かと反発しあっていたし、未だにい組の彼とか彼が乱太郎にちょっかいを出しているから、仕方ないとも思うのだけれど。
 低学年の頃は一緒になっては組とやり合っていた一平は、四年生になった辺りから色々と自覚するようになって、彼らをからかうようなことはしていない。未だに素直になれない彼とか彼に対して、損してるなあと思ったりもしているのだが、思うだけで口にしたことはない。ライバルに塩を送るような真似はしたくないのだ。
 彼らが子どもみたいなことをしているから自分まで警戒されるじゃないかと思わないこともなかったけれども。

 一方、孫次郎も、組も委員会も違う乱太郎から自分を褒める言葉が発せられたことに動揺していた。嬉しくないわけはない、むしろ好きな子に褒められてすごく嬉しいのだが、思い当たる節がない。

 二人が微妙な顔で乱太郎を見つめると、乱太郎はあのね、と口を開いた。

「じゃあちょっと聞くけど、どうして二人は委員長にならなかったの?」
「それは…僕には荷が勝ちすぎると思ったからだけど…虎若は引っ張っていく力に優れてるし」
「それに虫たちが逃げたときも慌てず冷静に対応できるだろう?そういう部分が委員長に相応しいと思って」
「うんうん、そう、そういうところ」

 すごいと思うなあと微笑む乱太郎に、二人はやはり疑問符を飛ばすばかりだった。何がどうすごいのかが分からない。
 乱太郎は縁側に座り直すと、無意識にやってるんだね、やっぱりすごいよと再び笑った。

「あのね、私情を挟まないで相手をしっかり評価できるのって、なかなかできないことだよ、ってことなんだよ」
「…そうか?」
「普通だと思うけど…」
「そんなところも、私は尊敬してる」

 そういうのに、い組とか、ろ組とか関係ないよと言ってのけた乱太郎に、二人はどうしようもなく心が跳ねた。

 相手の良いところを素直に認められるのは君も同じ。そんな君を僕らは尊敬しているんだとか、そんなことを考えながら、二人は目の前で笑う乱太郎に笑いかけた。


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 孫次郎と一平ってこんな感じで良かったのだろうか/(^0^)\


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