コーヒーと背伸び



 飲んでみるかとすすめられて口を付けた真っ黒な液体は信じられないくらい苦くて、思わず乱太郎は顔をしかめた。
 口の中に広がっていく苦味が全身を冷たくさせるような感覚に陥る。温かいコーヒーだというのに。

 普段乱太郎が好んで飲むのは牛乳たっぷり、いやむしろほとんどが牛乳の甘いカフェオレだったから、同じ飲み物だと信じることができなかった。同時に、これが好きなのだと言う彼も信じられなかった。
 どうしてこんな苦いものを彼は涼しい顔で飲むことができるのだろう。年齢的にはまだ違うけれど、彼が「大人」だからだろうか、そう思ってなんだか悲しくなった。
 いつも余裕に溢れていて、何をするにもそつがなくて、スマートでスタイリッシュで。
 自分には過ぎた恋人だと思うことも多々あって、やっぱり私は先輩に釣り合わないのかな、なんて思ってしまう。

 砂糖もミルクも入っていないブラックコーヒーの入ったカップを返すと、彼は薄く微笑んだ。

「そんなに苦かったか?」
「苦いですよ、だってこれ何も入ってないじゃないですか…」
「だから最初に言っただろう。かなり苦いが飲んでみるか、と」
「う…だって…」
「まだまだ子どもだな。まあそんなところも可愛いが」

 そう言って彼は笑って、コーヒーを美味しそうにすすった。
 彼にまだまだ子ども、なんて言われて、まあその通りだけど、私がそのコーヒーを飲んでみたいと思ったのには理由があるんだと乱太郎はこっそり頬を膨らませた。
 彼の綺麗な顔を見つめながら乱太郎は思う。

(あなたと同じものを飲んだら、少しはあなたに近くなれるのかと思って、なんて)

 言ったら彼はどんな顔をして笑うのだろう。


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 自分のために頑張って背伸びしようとしてる乱ちゃんが可愛くて仕方ない仙様でした。
 子どもだってことを気にして、釣り合わないんじゃないかなと悩んでる乱ちゃんですが、仙様はその内成長するんだし釣り合わないとかそんなことは考えてないと思います。でも悩む乱ちゃんは可愛いので何も言わない。意地悪というかドSというか。
 まあ乱ちゃんの不安が爆発して乱ちゃんが泣いちゃったらきっと動揺して慰めにかかるんだろうけどね!!

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