絡める



 視界をゆらゆらとくすぐる茜色をそっと捕まえる。
 ふわふわしたそれは、すぐに絡まってしまうと彼女は言っていたけれど、三郎の指をからかうようにはらはらと零れていった。
 彼女本人に逃げられているような気がして、三郎は慌てて手を増やした。引く力加減を間違えてしまったのか、前を向いていた彼女が苦笑しながらこちらを振り返る。

「こら、こら」

 あまり弄ばないでおくれと注意を寄越した彼女に、三郎は口を開いた。

「でも、」
「でも?」
「俺は乱太郎先輩に弄ばれているので、おあいこだと思います」

 真っ直ぐ彼女の目を見て言えば、彼女は常盤色の目をぱちくりと瞬いて、私が三郎を弄んでる?ごめん私、三郎に何かしちゃったっけ?と聞き返した。
 ああやっぱり気付いてないんだなぁ、やっぱり乱太郎先輩は鈍いんだなぁと本人に知られればこつりと頭を叩かれそうなことを思いながら、三郎はぽそりと呟く。

「…乱太郎先輩は、俺の心を弄んでるじゃないですか」

 ゆらゆらと視界をくすぐる茜色の髪も、吸い込まれるような常盤色の瞳も、いつでも自分を見つけてくれる目敏さや苦く笑うその表情さえも自分をこんなに落ち着かなくさせるのに。
 その原因となっている彼女本人は何も知らずにきょとりと首を傾げるだけだ。

「だから、髪をいじるくらいは許してもらえないとずるいと思います」
「えっと、良く話が見えなかったんだけど…うーん…強く引っ張らないでいてくれるなら、良いよ」

 ああ、そんな簡単に許してしまうところもこちらの心を弄ぶことになるのに、やっぱり乱太郎先輩は何も分かってないと三郎は思う。
 それでも手を離せなかったのは、心を離せないのと同じ原理で。再び前を向いてしまった彼女の背中にいっそ縋り付いてしまいたくなった。


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58.絡める(恋する動詞111)
お題:確かに恋だった


 私も乱ちゃんの髪ふわふわしたいとです…
 おそらくこのあとやって来たタカ丸に三郎は怒られると思います。

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