見つめ見つめて見つめられ



 じっ、と見つめてくる目に居心地の悪さを感じる。

 遠くで誰かがはしゃぐ声が聞こえる以外は静かな医務室は、障子越しの日の光以外に光源はない。奥まった少し暗い位置に座る己の先輩から注がれる視線はひどく熱がこもっていて、闇に光る目のようにも感じられた。

 あまりに熱心に顔を見つめられるから、何かあるのだろうかと乱太郎は、包帯を巻く手を休ませてそっと顔に手を滑らせた。
 けれど指に引っ掛かるものも、指に付着する何かも存在しなくて、首を傾げるしかない。

「どうした、乱太郎」

 乱太郎の行動に彼は声を上げる。その声はいつもと同じ、優しい声だった。
 常ならぬ彼の様子に戸惑っていた乱太郎は、詰めていた息をほっと吐き出しながらかれに向かう。

「いえ、数馬先輩が私のことを見てらっしゃるので、何か顔についているのかなって…」
「ああ、そういうことか。大丈夫、何もついてないし汚れてもない」
「そうですか…なら、良いんですけど…」

 じゃあどうして数馬先輩は私の顔を見ていたのだろう。思いながら乱太郎は数馬の顔を見つめた。
 乱太郎の言わんとしているところを感じとったのか、数馬は困ったように笑う。

「悪い…気持ち悪かったか?」
「いえ、そんな!そんなことはなかったです、けど…」
「けど?」
「いえあの、ちょっとドキドキしたと言いますか…どうして、こんなに見つめられるんだろうと、思っただけで」

 ドキドキしたとか、自分は何を言ってるんだろう、そんなことを考えながら、乱太郎は手の中にある包帯をいじった。
 でも居心地悪い思いをした、というか熱い視線にこそばゆいような思いをしたのは本当だったから、再び見つめてくる数馬の視線から乱太郎は目を逸らした。
 なんだか上手く、見つめ合うことができなかった。
 数馬は視線を落とした乱太郎に声を投げる。

「乱太郎は、華やかだなと思って」
「…え?」
「だから、華やかだなと思ったんだ」

 そんなこと一度も言われたことがなかった乱太郎は、数馬の言葉が理解できずに首を捻った。
 ふわふわして異人みたいな色のまとまりない髪、小さい目に頬に浮かぶそばかす。自分を卑下するとかそんなつもりはないけれど、自分はどう足掻いても「華やか」という形容からは遠い人間だと思う。
 その言葉は例えば、六年生の伊作先輩とか、四年生の滝夜叉丸先輩とか、三年生の孫兵先輩とか、そういう先輩たちの方が似合う気がする。
 乱太郎があれこれ考えていると、数馬が声を立てて笑った。そういうところが、華やかなんだよと言う。

「え?」
「喜怒哀楽がはっきりしてて、表情がころころ変わって。それで、花が咲くみたいに笑うから、『華やか』。お前は気付いてないかもしれないけど、お前の表情ってすごく引き付けられるんだよ」
「…よく分かりません」
「ずっと、見ていたくなるってこと」
「はぁ…」

 曖昧な返事をしながら乱太郎は、今目の前で穏やかに笑うこの先輩を、ずっと見つめていたいと思う気持ちがもしかしたら、先輩が自分を見ていたくなると言った気持ちと同じものなのだろうかと医務室の片隅で感じていた。


(ひどく落ち着かない、この感じは)

(いったい、なあに?)


_ _ _ _ _

 それは、恋。


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