2011/5/11 小話(こへ乱)
・小話です
・こへ乱(練習的な)
「…七松先輩」
「どうした?」
「この状況を三十字以内で的確に説明していただけますか?」
「体育委員会が掘った塹壕に乱太郎が見事にはまってさあ大変」
「的確すぎて泣けてきました…」
「お前が言えと言ったんだろう?」
「そうですけどねっ」
ちょっとだけ涙目になりつつ、乱太郎は、伸ばされた手を取った。
乱太郎を塹壕から助け出した小平太は、汚れてしまった忍者服から土を払ってくれる。豪快に笑いながら払ってくるので、力加減が迷子らしく、若干痛い。
それでも出会った頃に比べればはるかに優しくなった手つきに流されそうになりつつも、乱太郎はきっ、と小平太を見上げた。
「これで何度目ですか、先輩!」
「新学期が始まってから十回は越えたな!」
「もぉおおお分かってらっしゃるならどうしてやめてくださらないんですかぁあああ!」
先ほどまで乱太郎が仲良くしていた塹壕は、乱太郎が毎日のように通る場所に掘られていた。
場所こそ違えど、小平太の言う「十回」のすべてが、乱太郎がよく使用する通路であったり、建物の傍に掘られていた。勿論、避けようと思えば避けられる。現にこの塹壕に落ちているのは乱太郎くらいのものだ(保健委員が引っかかった場合もあるのだが)。
乱太郎が引っかかることを想定して掘り進めているとしか思えない体育委員会委員長に、乱太郎は勘弁してくださいよ、とがっくり肩を落とした。
「もう少し場所を考えてもらえませんか…まあ…こんな分かりやすく掘られた塹壕にはまる私も私ですけど…」
「何を言うんだ、お前をはめるための塹壕なのに」
「え、やっぱりイジメですかこれ」
どうしようちょっと泣きそう、と心の中で言う乱太郎に、小平太は言う。
「私に追いかけられるということは、こういうことだと、まあ、気付いてもらおうと思ってな!」
「はい?」
小平太を見上げると、彼はにやりと口角を吊り上げ、乱太郎の頬に手を滑らせた。その手つきは優しげで落ち着くようでいて、どこか逃げ場を失ったような、そんな気にさせられる。
「乱太郎がそこまで言うならもうお前の進行を妨げたりはしない。ただし、もう逃がしは、しないからな」
ああ、もしかして、塹壕に落ちる方がずっと心やすくいられたのかもしれない、なんて、囚われる心臓の音を聞きながら乱太郎は思った。
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「頭を使う」の意味を一回辞書で調べるべきだったかも知れない…
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