2013/8/10 小話(一ろ→乱♀)



・女体化、転生ネタ注意

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 五人が五人共幸せになれる未来を。
 願ったのは、それだけ。
 ただ、それだけ。
 それなのに、ああ神様!
 どうして叶えてくれないのですか。


「今回はどうだろうねえ」
 ひそり、彼は呟いた。ゆらり、揺れる蝋燭の火がその顔を照らし出す。その顔は笑みの形を取っていたけれど、はっきり言って怖かった。当たり前である。
「伏木蔵……それ、やめて?いつも思うけどこわい。すごくこわい」
「えー?スリルを味わってもらおうと思ったのにー」
 そういうのはいらないいらないと伏木蔵と蝋燭を囲んだ三人は首を横に振った。彼らの引きつった表情を見て、伏木蔵はゆるゆると蝋燭から身を引いた。再び、車座になった四人の真ん中に光が置かれる。みんなも僕とそんなに変わらないくらい怖い顔になっちゃってるのになあと伏木蔵は思ったが、それを口にすることはなかった。
「話を戻すけれど……今回はどうだろう、七回前と状況は似てるのかな」
「乱ちゃんだけがは組になるのはもう毎回のお約束って考えるとしても、確かに似てるかもねえ」
 ぽつりぽつり、彼らは考えを口にする。その内容は彼らにしか理解できないものであった。彼らだけが共有する秘密。それについて彼らは語っている。
「小松田さんが乱ちゃんの性別を間違えてこっちに入学させちゃうのも、そろそろお約束って言えそうだね……」
「それを学園長先生が面白がって訂正しないのも、ね……」
「乱ちゃんと僕が保健委員になるのもいつも通りだねえ」
 語る彼らの表情は明るくない。元から明るくはないのだが、輪をかけて明るさが低下していた。はあ、とため息をこぼしたのは誰であったか。しぃんと部屋に静寂が降りる。
「……でも、いつもと違うこともあったよ」
「え……?」
「それ、本当……?平太……」
「うん……だから。だから、まだ分からないよ……」
 平太が少し、調子を明るくしてそう言えば、他の三人も少しだけ目の輝きを取り戻した。いつもと同じならば、そう遠くない未来に愛しいあの子との別れが待っている。
 けれど、今回は違う。それは些細な差かもしれない。だが些細な差は年を経る毎に大きくなる。それを彼らは知っていた。彼であり彼女でもある乱太郎と幾度となく繰り返してきた時間が、彼らにそれを教えたからだ。
「そっか……じゃあ、希望はあるんだね。最初から絶望じゃないんだね……」
「そうだねえ、前回は乱ちゃん既に鬼籍に入ってたもんねえ」
「うん……」
「頑張れそうな気がしてきた……」
 そして彼らはにこりと微笑みあった。残念ながら外から見ると「にこりと」というレベルではなかったけれど、彼らの中には微かな希望が生まれたのだから、気分的には「にこりと」である。
「じゃあ……今回も頑張ろうね。乱ちゃんと僕らの幸せのために」
「うん……頑張ろう頑張ろう」
「とりあえず乱ちゃんを狙う不貞の輩は早い内に仕留め……」
「伏木蔵そういうのはやめようね絶対にね」
「ちぇ。分かってるよー。……でも、乱ちゃんのことはちゃんと守りたいんだ」
 真剣味を帯びたその声に、異論を唱える者はいなかった。ゆらりと蝋燭の炎が揺れる部屋で、彼らは誰が言い出すでもなく手を重ね合う。それは、彼らが乱太郎を幸せにしようと誓い合ったあの日から幾度となく続けてきた儀式だった。
「どうか……乱ちゃんが幸せになれますように」
「できれば僕たちも幸せになれますように」
「乱ちゃんが幸せになれるなら乱ちゃんと結婚できなくても良いです」
「でもできれば乱ちゃんと結婚したいです」
「僕たちのこの手で、乱ちゃんを幸せにできますように」
 どうかどうか、神様お願いします。自然と重なったその声は揺らめいていた蝋燭の炎をふつりと消した。


 五人が五人共幸せになれる未来を。
 願ったのは、それだけ。
 ただ、それだけ。
 それなのに、ああ神様!
 どうして叶えてくれないのですか。

 本当は分かっているんです。
 そんな他人任せなことじゃいけないんだって。
 だから、僕たちはがんばることにしました。
 神様が両手を挙げて降参するまで、
 幸せになるために足掻いてみせます。




「ところでいつもと違うところって?」
「滝夜叉丸先輩の眉毛がいつもより一割薄かった」
「…………へえ」


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 明るい転生計画!
 暗くない転生ネタを書きたくなったんです……続くかもしれないし続かないかもしれない。





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